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予想外のおでむかえ



「なあ木兎」
「ん?」
「あれ、愛心ちゃん何してんの?」
「ああ、音駒待ってんだよ」
「なんで、知り合いでもいるとか?」
「いや。愛心音駒のこと本物の猫だと思っててさ、沢山猫さん来るー!とか言って楽しみにしてんの。可愛くね?」


練習試合が始まるまでの練習メニューを一通り考えていると、うさぎのぬいぐるみを抱えて正面入口に座り込む愛心を見た猿が訊ねてきた。


「そりゃ待ってる姿は可愛いけどさ、なんでまたそんな勘違いしてるわけ?」
「木兎さんのせいです」
「おい赤葦、なんで俺が悪いみたいな言い方すんだよー」
「なんでって、朝愛心ちゃんの勘違い正さなかったの木兎さんじゃないですか」


突然背後から現れた赤葦が猿に告げ口をする。けど別に大したことではないだろうし、愛心が驚く反応を見てみたいと思うのだからしょうがない。


「そういうことか。あいつらじゃ可愛いものを想像してる愛心ちゃんにはギャップあり過ぎてキツイかもな」
「ですよね」
「けどお前ら、黒尾達の反応も気になるだろ?愛心見てどんな反応するか」
「あれ木兎、黒尾に連絡したんじゃないの?」
「いとこ来てるってのは言ってあるけど、歳とか言ってねぇもん」
「はぁ…」
「さすがと言うか、なんと言うか」


溜息をつく赤葦と苦笑しながら呆れ顔を向ける猿。一体何が言いたい。


「こーたろー」


失礼な表情の2人に文句を言ってやろうとしていると、こっちを向いた愛心に呼ばれた。


「どーした?」
「ねこさんまーだー?」
「もうすぐ来るぞ」


俺の言葉を聞くとまたクルッと入口の方に向き直って「まだかなー」と言う愛心の髪の毛がワクワクを体現する様にゆらゆら揺れている。そんな姿が可愛くて愛心の背中目掛けて緩やかな速度でボールを転がせば、見事それが背中に当たって気付いた愛心がまたこっちを向いた。


「何やってんですか木兎さん」
「いいのいいの」

「…こーたろーのボール?」
「そう、愛心持って来てー」
「はーい!」


俺とボールを交互に見てにこにこと笑った愛心は抱き抱えていたぬいぐるみを傍の壁に丁寧に座らせてから、大きすぎるボールを両手に抱えて立ち上がる。だが愛心が俺の方に向かって歩き出そうとした丁度その時、お待ちかねの奴等がとうとう到着した。


「整れー…」


沢山の足音と人の気配にボールを持ったまま入口の方を向いた愛心だったが、期待していた可愛い猫とは違い、目の前に現れた自分より何倍もデカい真っ赤な集団に顔を上げたまま硬直している。そしてそんな愛心を見た音駒の面々も出迎えがまさかの幼児ということに面食らった表情で全員が愛心に注目していた。黒尾なんて整列の号令止まってるし!
笑いを堪えて愛心の傍まで行こうと歩を進めた時、愛心が手に持っていたボールがストンと落ちて反動で小さく床を跳ねた後コロコロと転がっていった。


「…うっ、」
「「「!!」」」


小さくしゃくり上げる声が聞こえたのと同時に音駒の奴等の表情が焦りの色へと変わったことで今の愛心の状況が一瞬で分かった。え、マジで?見ただけで?


「っうわぁぁぁあん!」
「わわっ泣いちゃいましたよ!?」
「誰この子!めっちゃちっさいッスね!」
「ちょっと、リエーフ押さないでよ…痛い」
「これはまた可愛いお出迎えだな。結果的に泣かせちゃってるけど」


突然の状況に驚きつつも、遠慮がちに愛心を中心として群がり始める音駒の面々。それに対して愛心は足先から頭にかけて電流が走った小動物のようにビクビクと震えて怖がっているのが後ろからでもよく分かった。
よし、やっぱここは俺の出番だろ!って…おい、


「ほーらお嬢ちゃん、お兄さん達怖くないよー?」


俺の救出直前で愛心の前に屈んだ黒尾がそう言った途端愛心の泣き声が一瞬止まった。ええっ黒尾で泣き止むの!?驚きと嫉妬心からそう思ったが、一呼吸置いた愛心はさっきの倍のボリュームで泣き始めた。


「うわぁあああんっ、こーたろー!」


だよな、そうだよな!


「ほら愛心、こっちこっち」


黒尾から逃げるようにこっちへ走って来た愛心は、俺の後ろに隠れて膝の裏にぎゅうっと顔を押し付けた。


「…あれ?」
「黒尾怖がられたな」
「…笑顔が嘘っぽいからじゃない」
「ははは、言えてる!」
「お前ら…」


虚しくその場に取り残された黒尾に音駒の面々は相変わらず辛辣だ。


「整列!」


とりあえず挨拶を、と号令をかけると大概集まっていた部員が音駒と並列に並ぶ。


「「「お願いします!」」」


両校の挨拶が重なれば少なからず空気が震えて、それに驚いたのか俺の足に腕を回して抱き付いていた愛心がビクッと小さく反応した。様子を伺えば愛心も真っ赤になって濡れた目で不安そうにこっちを見上げている。


「…こーたろー、ねこさんは?」
「あー、猫さんってこいつ等のことなんだよ愛心。“ねこま”って名前の学校なんだわ」


「動物の猫さんじゃなくてごめんな」続けてそう謝ると俺の後ろから恐る恐る顔を覗かせた愛心は、目の前の音駒の面々を一通り見渡してまた俺に視線を戻す。


「…こわくない?」
「怖くない怖くない」


そう返しながらも黒尾を見てニヤリと笑えば何か言いたげな表情を向けられた。そんな俺たちのやり取りを見ていた夜久が、置きっ放しとなっていた愛心のぬいぐるみを持って愛心の前でさっきの黒尾と同じように屈んでみせた。


「こんにちは。さっきはごめんね、びっくりさせて。はい、これ」


ぬいぐるみを渡し笑顔を向ける夜久をパチパチと瞬きをしてジッと見つめている愛心。


「…ありがとう。うさちゃん、あこのおきにいりなの」
「そっか、可愛いもんな!名前愛心ちゃんって言うんだ?」
「うん、ぼくとあこ」
「あ、やっぱりこの子が木兎のいとこなんだな」
「おう!可愛いだろ!」
「木兎に似てなくて可愛いわ」
「ちょっとやっくん!?」
「似てないのは事実だろ」


そう言って立ち上がりながら自然に愛心の頭を撫でる夜久に、怖がることもなく黙って撫でられていた愛心が夜久を見上げて口を開いた。


「やっくんってお名前なの?」


フランクに呼んだあだ名を瞬時に記憶した愛心は、そう言って片方だけ俺の足に触れたままの手のひらにきゅっと少し力を込める。


「名前は夜久衛輔だけど好きに呼んで良いよ?」
「じゃああこ、やっくんってよぶ」
「どーぞ」
「…やっくん」
「ん?」
「やっくん」
「はい?」
「やっくん!」
「あははっ早速連呼!こりゃ可愛いわ!」


そう言って笑いながらもう一度夜久が頭を撫でれば、愛心はいつもの笑顔に戻っていた。
恐るべし音駒のオカン!!


「入口に集まって何やってんだ」
「あ、おはようございます!」
「おう、おはよう。!、そこの子が例のおチビちゃんか」
「そうっす。大人しいんで大丈夫だと思いますけどよろしくお願いします。ほら、愛心」


少し遅れてやってきた猫又監督にあいさつをさせる為、まだ俺の後ろに隠れ気味の愛心を前に出す。


「…おはよう…おじいちゃん、センセー?」
(((おじいちゃん!!)))

そりゃ愛心から見たら猫又監督はおじいちゃんくらいの歳だろうけど…


「あの猫又監督、すみませんっ…!」


愛心の代わりに謝る俺に片手を上げて、猫又監督は愛心の頭に手を乗せた。


「そうだなぁ、ここに居る赤いジャージの兄ちゃん達にバレーボール教えてる先生だよ」
「ねこ、またセンセ…?ねこセンセー?」
「はっはっは、猫先生だな!ほら、お前らは早く始めんか」
「「「ウッス!」」」
「おチビちゃんはこっちな」
「うん」


そう言われて猫又監督の後ろをついて行く愛心を目で追いながら俺たちは取り敢えず試合前の練習を開始した。