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おやすみベイビー




風呂から上がりリビングに戻ると、淡いピンク色のつなぎを着た愛心が駆け寄ってきた。多分パジャマなんだと思う。


「こーたろー」


朝から何度もあるこの愛心の行動にも慣れてきて、可愛いのは勿論だが今は前から駆け寄って来られると膝の位置に顔がくる事が危なっかしくて心配になる。だから抱きつかれる前にヒョイッと視線の高さまで抱き上げると「見てー」と耳が付いたフードを被って「うさぎさんだよ?」と嬉しそうに笑ってみせた。


「おおー可愛いな!」


ぬいぐるみといいパジャマといい、多分愛心はうさぎが好きなんだな。そう思いながら笑い合う俺たちの会話に、だいぶ低いテンションの声が割って入ってくる。


「木兎さん、俺もう眠いんで帰ります」
「えー、なんだよまだいいだろ」
「いいだろ、の意味が分かりません。それに今何時だと思ってるんですか」


「明日音駒と練習試合ですよ」と呆れたように続ける赤葦。愛心はそんな赤葦を見て少ししょんぼりとした表情になった。


「けーじくんおうちかえるの?」
「うん、もう夜だからね。愛心ちゃんももうすぐ寝る時間だよ」
「うん…でもあこね、けーじくんといっしょにねたいな」
「え、」
「えっ!?」


愛心の発言に二人して同じ言葉が口をつく。


「ちょっ愛心何で赤葦!?俺じゃねーの?」
「こーたろーとあこと、けーじくんと3人でねるの」


小さな指を3本立てて俺と赤葦にそう言う愛心はにこにこ顏だ。


「そういうことか!よーし、じゃあ赤葦泊まっていけ」
「なんでそうなるんですか」
「だって愛心が一緒に寝たいって言ってんだぞ」
「それは嬉しいですけど、さすがに泊まるとか…。あとさっきも言いましたけど明日練習試合ですよ?木兎さんは愛心ちゃんいるんだから俺が先に行って部室開けないとなんですけど」
「そんなの朝早目に出て一緒に赤葦の家に寄ってから行けば良いだろ?」
「簡単に言いますけど、そんな朝早くから愛心ちゃんどうすんですか?」
「一緒に連れてくけど?」
「あこけーじくんのおうち行くー」


何をそう心配することがあるんだ?そう思う俺に対して赤葦は、今日一の盛大な溜息を吐いた。


「俺知りませんよ」
「大丈夫だって!」
「けーじくんかえらない?」
「おうっ帰らない帰らない。3人でお泊まりな!」
「……」
「わーい、けーじくんもいっしょ!」


そう言って俺の腕の中で嬉しそうに両手を上げる愛心を見て少し悔しくなった。


「はぁ。とりあえず二人とも髪乾かさないと風邪引きますよ」
「そうだな。よし愛心髪乾かすか」
「ブォーのやつ?」
「ドライヤーね」



·



洗面所でドライヤーをセットしスイッチを入れると、「キャーッ!」と嬉しそうにはしゃぎ始める愛心に一瞬ビビった。


「ドライヤー好きなの?」
「かぜがね、ブォーってなってきもちー」


俺の方を向いて嬉しそうにそう言う愛心の顔に一瞬風を当てると、また「キャーッ!」と小さな手で顔を覆いながらその場で足踏みして笑い出す。おもしれぇ。朝から見てきた中で一番子供らしくはしゃぐ姿に見えた。


「よーし!じゃあ髪乾かすぞ」
「はーい」


ドライヤーを持って愛心の後ろにしゃがんで髪を乾かしてやる。肩下ほどまである髪は癖もなくまっすぐでサラサラしていた。


「愛心の髪はサラサラだな」
「こーたろーは違うの?」
「サラサラではない」
「じゃああとであこがかわかしてあげるね」
「マジか!」
「まじー」


ドライヤーでテンションが上がってきたのか、俺の言葉を真似ながらくるっとこっちに振り返った愛心は、濡れた俺の髪をわしゃわしゃと撫で始めた。


「こーたろーおふろ入るとちがう人みたい」
「そう?」
「だってね、いまぺったんこだもん」


今度は両手でペタペタと髪を撫でつけながらそう言ってにこにこ笑っている。


「愛心はどっちがいいと思う?」


風を避ける為にぎゅうっと目を瞑りながら「うーん」と言う愛心は、ドライヤーを止めるとパッと瞼を開いて「どっちもすき!」と言って笑った。


「ヘイヘイヘーイ!さっすが愛心!」
「へいへい…?」
「ヘイヘイヘーイ、なっ」
「へいへいへーい」


今度は真似して両手を上げながら言う愛心の頭を撫でる。うん、可愛い可愛い。

その後宣言通り俺の髪を乾かそうと試みた愛心だったが、ドライヤーを使いこなすのは勿論無理で、しゃがんで髪を乾かす俺の後ろから一生懸命髪を撫でてくれた。



·



「よーし、終わり!」


髪を乾かしてドライヤーを仕舞っていると愛心は一足先にリビングへと戻って行った。後に続いて俺もリビングに戻ると、ソファに座る赤葦の目の前に小さく屈んで首を傾げながら赤葦を見上げている。


「どうした愛心?」
「しーっ」


愛心は人差し指を口に当ててそう言うと、反対の手で赤葦を指差した。


「けーじくんねてる」
「うそっ」


愛心の横に一緒にしゃがんで赤葦を見ると確かに眠っていた。合宿の時に何度も寝顔は見ているが、俺ん家で寝てんのとかそうそうある事じゃないしなんか変な感じがする。つーかそんなに眠かったのね。まあ何はともあれ可愛い後輩の寝姿に、ここはいっちょカメラに収めるか、とスマホを取りに行こうとした時愛心が嬉しそうに喋り始めた。


「かわいーね」
「え?」
「けーじくん、おきてるときはやさしーしかっこいーけど、ねてるのはかわいーと思う」


やたらにこにこ顏でそう言うから即座に愛心を抱き上げて、赤葦の肩を揺する。


「あかーしー、部屋で寝るぞー」
「あっ…すみません、俺寝てました…?」
「寝てました寝てました。ほら行くぞ」
「…はい」


リビングの電気を消して2階の部屋まで上がる途中、抱っこしている愛心が後ろからついて来る赤葦の頭を小さな手で撫でて「けーじくんねむいの?」と訊ねる。それに「うん」と素直に答えて赤葦も愛心の頭を撫でた。本当に仲良いのね、なんか俺仲間外れ感いっぱいでけど…まあ二人とも可愛いから許すけどさ。

部屋に入ると散らかったそこに一瞬赤葦の眉間にシワが寄ったものの、今は眠さの方が勝っていたのか「もう少し片付けた方が良いですよ」の一言だけで終わり胸を撫で下ろす。ただ問題はここからだった。さすがに大の男2人と愛心が一つのベッドに収まるのは無理があったのだ。普通に考えればそうだよな。そう思いながら母ちゃんたちの部屋から布団を運んでいる内に赤葦と愛心は二人仲良く俺のベッドで眠り始めていた。しかも愛心を抱き枕の様に抱きしめて寝始める赤葦にぎょっとする。


「ちょっと!?俺が下なの?つーかなんで2人で寝てんだよ」
「…俺、もう限界です…」
「いや限界とかじゃなくて!おーい赤葦?」
「……」
「どんだけ眠かったんだよ」
「こーたろー、もうおやすみなさい?」


赤葦の腕の中にホールドされたままこっちを向いている愛心もさっきより眠そうな顔をしている。三人で寝るんじゃないのね。


「はいはい、二人で寝たらいいじゃん。俺は一人寂しく寝ますよー」
「こーたろー?」
「……」
「こーたろー?」
「…何ですか?」


床の上に敷いた布団の上でベッドと反対側を向きいじけて見せるも、愛心が何度も名前を呼ぶからしょうがなく愛心の方に向き直った。


「あのね、あこもけーじくんもこーたろーのことだいすきだよ。おふろのときお話したの」
「赤葦と?」
「うん!だからね、おこっちゃだめだよ?あしたはあこ、こーたろーといっしょにねるもん」


そう言ってにっこり笑った後に欠伸をした愛心の頭に手を伸ばして撫でてやった。


「おう、じゃあ明日の楽しみにしとくかし」
「うん」


電気を消すとなぜかこそこそと声のボリュームを落として話をしていた愛心だったが、次第に言葉数が減っていって暫くすると小さな寝息が聞こえてきた。


こうして愛心と過ごす1日目が無事に過ぎて行った。