まねっこ
※某有名アニメ映画から引用している箇所があります。
快晴、心地よい気候、まさに日向ぼっこ日和。
とは言えのんびりしていられるほど暇じゃない僕らはグラウンドで鍛錬の最中だ。普通の学校とは違うから常時先生がいるわけじゃないけど別にサボる人もいない、普段なら。
「おいこらパンダ、次お前だ」
いつものごとく真希さんにボコボコにされた僕を尻目に次のターゲットに声掛けをしている真希さんはさすがで、地面に崩れ落ちている僕の傍にしゃがみ「こんぶ」とペットボトルを差し出してくれる狗巻くんに「ありがとう」と小さく返事を返しながら痛む身体をなんとか起こせば、視線の先には何やら不思議な光景が広がっていた。
「あれ何やってるんだろう」
「おかか」
視線の先、そこには仰向けに寝っ転がっているパンダくんの上に座っている心ちゃんの姿があった。
心ちゃんは保護された当初からパンダくんのことが大好きでよくくっついて回っている。まああの見た目で更には動いて喋るとなれば子供が食いついてしまうのも分からなくはない。
「何やってんだあいつら」
「いくら」
なかなか動かないパンダくんに痺れを切らした真希さんも水分補給をしに戻ってきた。そして、遠目から二人の姿を見守っている僕らには全く見向きもせず、にこにことパンダくんを見下ろしている心ちゃんが次の瞬間口にした言葉に三人揃って噴き出してしまう。
「あなたはだぁれ? まっくろくろすけ?」
「ドゥオ、ドゥオ、ヴォロロロー!」
「ととろ! あなたととろって言うのね!」
某有名映画のワンシーン、それを忠実に再現している。しかもタイミングよく蝶々まで飛んでいるものだから余計にあの世界観を覗いているようだった。
「フッ、パンダくんの真似完璧すぎる」
「しゃけしゃけ!」
「馬鹿だろあいつ」
やりきった心ちゃんが「やっぱりととろね! とーとろっ」とパンダくんの上に寝っ転がって微睡む真似を始めたところで、そのまま心ちゃんを抱っこしたパンダくんがようやく身体を起こした。
「よし心、次俺の番だから憂太と棘と遊んでろな」
「またあとでととろごっこしてくれる?」
「いいぞ」
「やったー!」
言いながら僕らの方へやってきたパンダくんは心ちゃんを下ろして「待たせたな真希」とやる気満々だけど、僕たちはさっきまでの光景を見ていたから笑いの方が優先してしまっている。
「パンダくん完璧だったね」
「そうだろ?」
「そういや先週やってたな金ローで」
「昨日寝る前に見せたらこれよ」
「こころじょーずだったでしょ?」
そう聞いてくる心ちゃんは「ツナツナ〜」と頭を撫でながら褒めてくれる狗巻くんに嬉しそうに笑い返していた。
それから暫くととろごっこにハマってしまった心ちゃんに付き合うことになる僕たちは、数日後まさか五人並んで木の芽を伸ばすあの踊りをさせられるとは思いもしなかった。ノリノリの狗巻くんとパンダくんを他所に最後まで抵抗していた真希さんも、「まきちゃんがお姉ちゃん役じゃなきゃヤダ!」と言う心ちゃんのお願いに折れて一度だけしてくれたんだけど、そこをたまたま通りかかった五条先生にみんなまとめて弄られたことでその後二度と付き合ってはくれなかった。
まあ心ちゃんも飽きちゃったみたいだし、あの時はあの時で楽しそうだったから良かったんだけどね。