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いたずらしちゃうよ?



 世の中がお菓子だ悪戯だと賑わっている今日この頃。ただ僕たちにはそんなのは到底関係のないことでいつも通り任務をこなし、鍛錬を行い、この高専から出ない限りはそんな世の中のイベントごとに触れることもない。
 普通ならそう、だけど今年はちょっとばかり特別らしい。

「とりっくおあとりーと!」

 任務を夜通しこなし高専に戻ったのは昼前で、頭の中に激甘ラインナップの映像が流れるくらいには身体が糖分を欲していた。早くなんか甘い物食べたいな。そう思いつつ自身の受け持つクラスの扉を開いた途端、縁遠いと思っていたその言葉と共に足元に抱き付いて来たのは心。まあここにいる誰よりもその言葉が似合う女の子だ。

「えーなになに? なんか楽しそうなことやってるねぇ」

 数少ない生徒たちの机の上にはこれでもかというくらいお菓子が広がっていて、上目遣いにこっちを見上げている心は誰に仕込まれたのか魔女の様な仮装をしている。

「この間テレビでやってたハロウィン特集見て心がやりたいってきかなかったんだよ」
「それでまさかのハロウィンパーティー? 僕の生徒たち可愛すぎでしょ」
「おかか」
「別に俺たちだけじゃないけどな。心がいつどこでこれ言い出すかわかんないから今日は高専中の人間がお菓子準備してるってだけだ」
「なかなか外にも連れ出してあげられないしね」

 パンダの話からここの連中も相当心には甘いなと思いつつ、ということはどこに行っても糖分摂取できるってわけか! と思い立つ。

「じゃあトリックオアトリート! 僕にもお菓子ちょーだいよ」

 いまだにこっちを見上げたままの心の頭を撫でながら一年生四人に向かってそういうと全員が全員冷えた目で僕を見る。

「これは心用だ」
「しゃけしゃけ」
「大人までやってたらキリがないからあくまで心ちゃん限定でってことになってるんですよ」
「え〜」

 って言うかさっきから思ってたけど、そんな話僕全く聞いてないんだよね。任務だけガッツリ入れておいてこういうことからは除け者ってひどくない?

「さとる、お菓子くれる? こころいたずらしちゃうよ?」

 痺れを切らした心がそう言い出しちゃったしとりあえずはこっちの対処が先かな。ただお菓子なんて僕が欲しいくらいで今手元に何もないんだよね。

「ごめん心、今僕何も持ってないんだ」
「じゃあいたずらね!」

 嬉しそうにそう言って子どもらしく笑う心からの悪戯って一体なに、

 チュッ

「おかかっ」
「おい心!そんなことしたら変な菌が移るぞ」

 え、悪戯ってもしかしてコレ? 頬にキスって、誰だこんなこと仕込んだやつ。

「これ悪戯ってよりご褒美じゃない? 心、悪戯の意味知ってる?」
「うん。でもね、この前テレビでね いたずらをキスにしたらよろこんでもらえる って言ってたからこころもそうすることにしたの。みんなお菓子くれるからさとるが初めてだよ!」

 ニッコリ。あーあ、可愛い笑顔しちゃって。

「ははっ、この僕にキスできちゃうなんて心くらいのもんだよ。でもいいね、可愛い悪戯の御礼に心には僕と一緒にスイーツを食べに行く権利をあげちゃいます!」
「でもこころ、もういたずらしたよ?」
「いいのいいの、細かいことは気にしない! と言うことで僕少し心と出かけてくるからあとよろしくね〜」

 仮装したままの心をヒョイっと抱え上げて生徒たちにそう言えば「どうせ自分が食べたいだけだろ」とため息混じりの真希の声が聞こえてきた。
 まあ間違いじゃないけど、心連れなら束の間の休息くらい許されるでしょ。


「心なに食べたい?」
「パフェ!」
「OK〜、とっておきのところに連れてってあげるよ」
「やったー!さとるとデートだ!」
「ねぇ心、キスとかデートとかどこで覚えてくるの? あんまり変な番組見ちゃダメだよ、僕心配」

 最近の子供ってこんなもんなのかなと思いつつ、外に出るからと目隠しを外して心を見れば「はやくパフェ食べたいねぇ」と満面の笑みを向けてくる。その笑顔にまあ細かいことはいっか、と気を取り直して心とのなんちゃってデートを楽しむことに気持ちを切り替えるのだった。