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なに言ってるかわかんない



 自分史上最大の難関かもしれない。
 両親を呪殺された上に呪いを惹きつけるという特異体質なことも相まって高専で保護された心。「これも一つの任務みたいなものだよ、交代制で面倒見てね!」と明るく言い残した悟はあまりにも無責任だ。
 体よく利用されている自覚は全員あるが、だからと言ってまだ四歳の子供を嫌だとか無理だとかいう理由で放置できるわけもなく、こうして言われた通り面倒を見ている。
 そして今日はその当番が自分なのだけど。

「ねぇとげ」

 繋いだ手は小さくて見上げてくる丸っこい頭も小さい。子供は嫌いじゃない、可愛いし。けど自分に宿る術式のせいでコミュニケーションを取るのはかなり難しかった。
 上手い言葉を返せないから視線を合わせる為にその場にしゃがんで心の目を見る。

「とげはお話しするのきらい?」
「おかか」
「おかか?」
「……」

 ほら、当然こうなる。呪言のことを気にした憂太やパンダがフォローしようかと言ってくれたが、さすがに自分以外もそれぞれに面倒を見ているわけだしそういうわけにはいかないと断ってしまった。……が、今回ばかりは力を借りた方が良かったかもしれない。
 文字を書いて伝えたり端末に打ち込んで伝えるという手段もこの年齢の子供相手には使えない。あとできることってなんだ?

「とげ、こころにあんまりお話ししてくれないでしょ?」
「!」

 一人考え込んでいると心がそう言ってきたので驚いた。そうだっただろうか。確かに級友に話すほど心に向けては言葉を伝えることはなかったと思う。それはもちろん伝わらない事がわかっていたからだけど、それを感じ取ってしまうのか。

「とげがふつうにお話しできないのしってるよ。まきちゃんたちがおしえてくれたの。でもこころもとげとお話ししたい!」
「高菜、」
「だいじょうぶだよ!おにぎりのなかみ、こころもいっぱい知ってるから!」

 そう言って満面の笑みを向けてくる心に面食らった。なんか励まされてる。そして、思っていた以上に可愛い。

「しゃけ」
「しゃけ!」

 わかった、という意味で口にした単語をそっくりそのまま真似る心。これはもう感覚でいくしかない、まあどうにかなるだろう。そう思って小さな頭を撫でてやると今度は嬉しそうに歯を見せて笑う。
 子供は大人に比べて感受性が強く心の機微を察知し易い、そんな風に聞いた事もあるし。表情豊かな心だから目さえ離さなければなんとかなるだろう。

「明太子」
「え? なぁに?」
「ツナマヨ」
「とげ、なに言ってるかわかんない」
「……お、おかか〜」
 
 前言撤回、やっぱり前途多難だ多分。
 頭を抱えながら苦笑する俺を見る心の悪気ないきょとん顔に余計に刺されながら、とりあえず頑張ろうと心で誓った。