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眠れなくて



コンコン──

扉を叩く音で呪具の手入れをする手を止めた。時間は二十二時少し前、寮にはそんなに人数もいないはずだ。

「誰だよ」

外していた眼鏡をかけ部屋の入口へ向かう。声は聞こえずそこに本当に人がいるのかも謎。それでもさっきのノック音は間違いなくこの部屋の扉から発せられたものだった。

ガチャ──

「あ?」

一瞬気づかなかった。視線の先には誰もおらず……って、いるな。

「まきちゃん」

少し前に悟が保護してきた子供。心。そう言えばいたんだったわ、同じ寮内に。

「こんな時間になにやってんだよ」

名前を呼ばれると同時にスウェットを掴まれる。寝間着姿で学長の作った中でも可愛い寄りの呪骸を抱き抱えた姿はこの学校にはほとほと不釣り合い。

「あのね、こころねむれなくなっちゃって。まきちゃんと一緒にねてもいい?」
「パンダはどうした?」
「やがせんせーとにんむ。ねる前に言ってた」

今日は確かパンダが心の面倒みる当番の日だ。まあ当番って言っても名ばかりで基本は心が好き勝手に過ごしてるのが実状、だからこうして突然の来訪もある。

「いいけど今呪具の手入れしてるから触るなよ。怪我するぞ」
「うん」

そのまま中へと招き入れればパタパタと小走りに走って、そのままベッドへと乗り上がった。

「こころおふとんに入ってるね」
「端につめとけよ」
「はーい」

もちろん一人用のベッドだ、まだ小さい子供とはいえ心が一緒となればそれなりに窮屈にはなる。おまけに呪骸付きだしな。

途中だった手入れを再開すると柔い視線が背中から寄越されて若干集中力を削られた。

「明るいと寝れないのか?」
「ううん、だいじょーぶ。まきちゃん見てるの」
「見なくていいから早く寝ろ」

溜め息を吐いて振り返れば小さな手が伸びてきて私の髪をやわやわと触ってくる。

「こころね、ねる時のまきちゃんだいすき! かっこいいまきちゃんもすきだけど、ねる時はすっごくかわいいもん」

そう言って微笑む心に柄にもなく恥ずかしくなるのは、きっとそれが普段言われ慣れない単語だからだ。

「そんなこと言うの心だけだぞ」
「そうなの? みんなダメだねぇ」
「あー、私は別にどうでも良いんだよ。けどありがとな」

小さくて丸い頭を撫でてそう言えば目を細めて「うん」と微笑む。
誰がどう見ても可愛いのはお前だよ、そう思いながらしばらく頭を撫でてやれば、小さく欠伸をして呪骸を抱きしめたまま重そうな目蓋を下ろしていった。