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貴方の掌のうえで



 身動ぎした時に布団から出た肩がヒヤリと空気の冷たさを感じ取って隣の温もりに擦り寄る。寝惚けた状態でも隣の悟が立てる小さな寝息はわかった。あったかくて気持ち良くてもう一度微睡みの中に意識を手放そうと思ったもののハッとして無理矢理瞼を持ち上げる。
 擦り寄ったとき引き寄せるように抱き締め直してくれた悟の腕の中でもぞもぞと身を捩りベッド横のサイドボードの時計を見て慌てて飛び起きた。

「大変っ、遅刻! 悟起きて!」
「んー、なに……」
「だから遅刻だってば」

 慌てる私とは打って変わって今の状況に全く動じない悟を放って先に準備、そう思ってベッドから降りようとすれば後ろから腕を引かれバランスを崩した身体は後ろへ逆戻り。

「そんなに慌てなくても良くない?」
「良くないよ! 私朝イチで伊地知さんと大事な仕事あるの」
「伊地知なら余計にいいじゃん。あいつ仕事出来るしなまえがいなくても大丈夫だよ」
「そういう問題じゃない。あと今日は二年生の任務の付き添いもあるし、悟だって担任なんだから遅刻してちゃダメでしょ」
「僕の生徒たちは優秀だからその辺上手くやってくれるよ」

 悟のこういうとこどうにかならないものか、心の中でそう思いながらも未だ横になったままの大きな身体を引っ張り起こす。

「いいから起きて!」
「はいはいわかったよ。ってか今日寒いね」

 ようやく布団を剥いで起き上がった悟はそう言うとまるで暖を取るように私の身体を抱き寄せた。

「悟早くしなきゃ」
「なるほど、それで寝坊したわけだ」
「うっ、」
「なまえって本当寒いの弱いよね」

 私の弱点なんて全て把握済みの悟は揶揄う様に笑いながら私の耳元に小さなリップ音を残して離れていく。

「あ、それと昨日たくさん頑張らせちゃったからか」
「バカ! もういいから早く起きて準備してっ」

 あはっ、と効果音が聞こえそうな笑顔付きで昨晩の事を思い出させる言葉を送られ恥ずかしさのあまり慌てて寝室を出た。
 疲れよりも幸福だ。五条悟という人を自分が繋ぎ止めていられる幸福。どれだけ激しい情事で何度手放しても引き戻される意識も、同時に与えられる優しさと確かな愛で全て帳消しにされる。そしてその温もりの中で眠りに堕ちてしまえば朝の寝坊もしょうがないというものだ。

「悔しいけど、好きすぎてしんどい」

 洗面台の前で一人呟いたのも束の間、直後鏡に映った自分の身体に悲鳴にも似た叫びをあげるのだった。

「見えるところに付けないでって言ってるのに!」
「いいじゃん、寒いし今日は髪下ろして行きなよ」
「頻度高すぎてそれで逆にバレるの」
「そうなの? じゃあもう飽きらめて」

 これは僕の独占欲の印だから。そんなことを言う悟に頭を抱えながらも本心は嫌じゃないと思ってしまうんだからもう私も末期なんだと思う。