冬のせいにして
雪が降った。目覚めた時普段より寒いと感じ、そして外が明るいと思ったのはそのせいだ。
カーテンを開けてみればそこはまだ誰にも踏み荒らされていない真っさらな白銀の世界で、思い切って窓を開けると自分の吐いた息が白く冷えた空気に溶けていく。さすがにもう外に出てはしゃいで遊ぶ歳ではないけど何となく心は弾む。今年初の積雪だもんなあ、そんな風に思っていたところで白銀の世界の中に人影が現れた。
こんな日に夜通しの任務だったのだろうか、それならあまりにも可哀想だと思いつつ目を凝らすとそれはよく見知った人物で驚きのあまりまだ距離もあるのに声をかけてしまった。
「棘! 任務だったの!?」
しっかり着込まれたアウターとグルグル巻きのマフラーは普段口元を覆っている制服すら全く見えないくらいに棘の顔を隠している。
「高菜〜」
寒かった〜。と任務というより寒さで疲弊している様子の棘は真っ直ぐに私の部屋の方へと向かってきて、歩く度サクサクと雪を踏む音が軽やかに耳に届いた。この雪じゃきっと足元も濡れちゃってるだろうから早く着替えてあったまってほしい。
「部屋に戻って身体温めなよ、風邪引いちゃうよ?」
「しゃけ」
わかってる。そう言うくせに窓辺まで来てしまうのだから嬉しい反面声をかけたことをちょっぴり後悔してしまった。
「ごめんね、私が声かけ、ヒャッ!!」
言いかけたところでさっきまでポケットに突っ込まれていた棘の手が私の両頬に触れていて、そのあまりの冷たさに変な声が出てしまった。そんな私の反応を見てケラケラ笑う棘にムッとして両手首を掴まえてやる。
「とーげー」
「おかかっ」
「嘘だ、全然悪いと思ってないでしょ!」
「おかかおかか、ツナマヨ」
思ってる思ってる、少しあっためて欲しかっただけ。そう言って室内と室外のせいで普段とは逆に視線の高い私の顔をあざとい表情で覗き込んでくる。
「そ、そんな顔してもダメ」
一瞬向けられただけの表情にしどろもどろになってしまう私を満足そうに眺めた棘は、掴んでいたはずの手をするりと私の後頭部に回して優しく引き寄せると二人の距離をゼロにした。
偶然の逢瀬も優しいキスも嬉しいけど、そっと重なっただけの唇が思っていた以上に冷たくて、離れてすぐにかけたかった心配の言葉は「ツナ、いくら?」とどこか甘える様に紡がれた言葉のせいで全て呑み込まされてしまった。
ねえ、あたためてもらいに行ってもいい?