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Happy new year



※時系列無視してますが「塒の檻」の番外編となります。










 年が明けたその時、目にしていたのは車のフロントガラスだった。呪術師や補助監督に年末年始とか関係ないのかもしれない。いや、私が自分で気にせず予定組んでくださいって言ったんだけど。
 ただ、いざ一人でその瞬間を迎えると思っていたよりも寂しく思えてしまう。かと言って特定の誰かとその瞬間を迎える予定もなかったのだからここはそういう相手がいる人に時間を与えてあげるべきで……。
 大晦日の朝から日付を跨いだこの時間までみっちり仕事があった。そしてようやく今高専へと戻ってきたんだけど、補助監督が車を停車する敷地へ入り込んだ時、車のライトが照らした先にとある人物の姿を捉えて驚いた。だから車を停めて早々に下車し彼の元へと急ぐ。

「棘くん!?」
「ツナ」

 そこに居たのは棘くんで、しっかりと防寒した格好で私が声をかけたのと同じくらいにこっちへ向かって小走りにやってくる。いやいやいや、こんな所で何してるの。

「ちょっと何してるの?」
「明太子」

 待ってた。なんて目を細めて言ってくれるのは嬉しいけど、街灯の心許ない灯りでさえ分かるくらいに鼻も頬も赤みがかっている。それを見て半分も見えていないその両頬へと手を伸ばす。

「冷たい!」

 ピタッと添えた後にそのままその頬を軽くひっぱると「おひゃひゃ」と崩れた否定単語が投げられた。

「一体どのくらいここに居たの?」
「いくら」

 ついさっき来た。そう言うけどついさっきでこの頬の冷たさや赤さにはならない気がする。
 再会してから今までで棘くんの優しさは充分分かってるつもりだ。それでもこんなことばかりされたらいい加減自惚れてしまいそうになる。

「ありがとう。でも風邪引いちゃうでしょ」
「おかか、こんぶ」

 大丈夫、カイロ貼ってるから。若干のドヤ顔でそう言って棘くんの指は四を作る。つまりカイロを四つも貼っているということだろうけど、そこまでして待っててくれなくても良いのに。

「もう、そこまでする? さては棘くん私のこと好きだな?」

 思いっきり冗談交じりで笑って言ったのに、一瞬大きく目を見開いてその後気まずそうに視線を彷徨わせるものだから墓穴を掘った気分になってしまった。

「ごめん冗談冗談! でも待っててくれて本当にありがとね、嬉しい」

 自分で言った言葉を誤魔化すようにそう言って笑うと、棘くんは口元のマフラーを引き下げて音のない言葉を紡ぎ始める。

「 あけまして おめでとう。今年も、 」

 その先に続く言葉は容易に想像できる。所謂新年の挨拶だろうから。だけどなかなか紡がれないその先にどうしたのかと首を傾げると、私の目を見たまま棘くんの声が、いつもおにぎりの単語としてしか聞くことのないその声が確かに耳に届いた。

「…よろしく」

 少し照れたようにそう言って笑顔を向けてくれる棘くんに驚きとなんとも言えないあったかい気持ちが胸の奥に広がっていく。

「うん、今年もよろしくね。また二人で沢山話しようね!」

 正直棘くんの声でそう言って貰えたことが嬉しくて飛びついてしまいたいくらいだけど、それはさすがにグッと堪えて隠しきれない嬉しさをそのまま笑顔で返せば「しゃけ」と言って棘くんも白い息を吐きながら笑ってくれた。
 そしてこの直後、この寒空の下待っていてくれた理由を聞いてやっぱり自惚れてしまいそうだと心の中で呻いたのは許してほしい。『 誰よりも先に おめでとう って言いたかったから 』なんて、そんなのずるいでしょ?