持つべきものは
「あーっ!」
「なんだよ急にでけぇ声出して」
車内に響いた私の叫び声に最初に反応したのは真希ちゃん。続いて明さんが「忘れ物っスか? 今から戻ります?」と来た道を戻るか確認してくる。
だけど違うの、忘れ物とかじゃない。
「違う、もっと最悪なやつ」
「どうしたんですかなまえさん」
隣に座っていた野薔薇ちゃんは少し心配そうに私を見てくる。
「アレがきちゃった」
「アレ?」
「そう、毎月腹痛と腰痛伴ってくるアレ!」
ガバッと野薔薇ちゃんの方を向いて言えば「あー、」とそれがなんなのか察した野薔薇ちゃんは可哀想なものを見るような目を私に向けた。
「そろそろかなっては思ってはいたんだよ。でも今のあの感じ……間違いない、絶対そう」
「準備は?」
「それはまあ。だけどなんでこんな時にくるかなあ」
最悪と言わんばかりのトーンで項垂れればハンドルを握る明さんが「確かに任務直前はきついっスね」と言ってくれるけど私がおもきに置いているのはそれじゃない。
「任務はまあいいんですよ。問題はそのあと! 任務終わりにみんなでパフェ食べに行く約束でしょ!? なのにこんなコンディションなんて……」
そう、今日は珍しく女子メンツでの任務で前々から野薔薇ちゃんと時間見つけて行きたいねって話していたパフェ専門店の近くが現場だった。だからちゃちゃっと呪霊祓って明さんも含めた四人でパフェ食べて帰ろうって話をしていたのだ。つまりちょっとした女子会、すごく楽しみにしてたのに。
「お前身体冷やすとすぐ体調悪化するもんな」
「それ!」
「大丈夫ですか? 無理はダメですよ、パフェは逃げないんだから」
「逃げないけどこんなタイミングそうそうなくない? これは逆に逃がしちゃダメじゃない?」
なんだかんだ言ってる内に現場に着いた私たちはとりあえず車を降りた。帳をおろす明さんの傍で重くなる身体の影響から深くなっていく眉間の皺を真希ちゃんが指の腹でついてくる。
「おい、無理すんなよ」
「そうですよなまえさん、私と真希さんでやっちゃいますから後ろでのんびりしててください」
「何勝手なこと言ってんだ野薔薇。けど無理そうなら本当下がってろよ、邪魔だしな」
「二人とも私に優しすぎない? 泣くよ?」
「邪魔ってのは気にしないんスね」
「明さんこれが真希ちゃんの愛情表現なんです」
「うるせーぞなまえ」
「はいはい。とりあえず、お気を付けて」
明さんが笑ってそう言ったところで任務開始。
帷内に入ってから呪霊との会敵までにはそう時間は掛からなくて、その頃には私のお腹の痛みも段々と強くなっていた。そしてそれに並行するようにイライラも募ってくる。
さっきの言葉通り私を後方に置いて戦ってくれようとする二人だったけどこの何かにあたり散らしたくなる痛み、本当に毎月毎月ムカつく痛み……!
「なまえさん?」
「ごめん、やっぱり大丈夫。やる」
「動けんのか」
「うん」
割と本気で後方支援に徹するように私を配置してくれていた二人にそう言って呪霊と向き合う。こういう時遠慮なく襲いかかってきてくれるのって助かるなあ、普通に生活してたら何かにあたり散らすのって良くないことだもんね。でもこれは正当防衛であり何より討伐任務! 誰にも咎められない、むしろ褒められることだもん!
「ああもうっ! 不快な声で鳴き散らしやがって。乙女がデリケートな時に手間かけさせんじゃないわよ!」
こっちの気分も体調も当然わかる事はない呪霊相手にそう吐き捨てて手数は少なく最小限の動きでトドメを刺す。もちろん呪霊は一体じゃなかったから真希ちゃんも野薔薇ちゃんもそれぞれに呪霊を祓っていくのだけど終わってみれば私が一番祓っていた。身体のだるさはあるけどおかげで気分はスッキリだ。
「なまえさんって意外とああいう言葉も使うんですね。なんか普段のイメージとは違う一面が見れて嬉しかったです」
「忘れて野薔薇ちゃん!」
「こいつ戦闘中やフラストレーション溜まると意外とあんなんだぞ」
「真希ちゃん!」
「いいじゃないですか、かっこよかったですよ。普段の可愛いなまえさんも勿論好きですけど」
これでもかと呪霊に八つ当たりしながら祓った結果可愛い後輩から失った今までのイメージを取り戻すことは難しそうだ。まあいつかはバレるんだからしょうがないか。
「そんなことより! なまえさんの体調が大丈夫そうならこの後の行き先変えません? パフェじゃなくてホットスイーツ食べれるお店とか」
「野薔薇ちゃん、」
「私は元からどこでもいいって言ってんだろ。好きにしろよ」
「真希ちゃん……ううっ、二人とも好き」
「「知って(ます)る」」
笑いながら声を揃えて返してくる二人のことが私は本当に大好きだ。持つべきものは強くてかっこよくて可愛くて、そして優しい仲間。ううん、友達かな。
帳が上がった先には明さんがいて傷一つない私たちを見るなり「お疲れ様っス。この後ですけど、こことかなら行けそうじゃないっスか?」そう言ってスマホを向けてくる。それを野薔薇ちゃんと一緒になって食い気味に覗き込めば、見るからにオシャレでメニューにもさっき野薔薇ちゃんが提案してくれた様な温かいスイーツもあって目の前の明さんにぎゅっと抱き着いた。
「明さんも大好きです!」
「え、急っスね!? いや、私も好きっスけど」
抱き着かれた明さんはそう言って可笑しそうに笑いながら私の頭を撫でてくれる。持つべきものに優しい先輩も追加だ。
「ふふっ、薬も効いてきたしストレスも発散したし美味しい物食べに行きましょー!」
「切り替え早すぎんだろ」
「あ、パフェはまた今度行こうね?」
「勿論です!」
即答してくれる野薔薇ちゃんに笑みを送りながらみんなで車に乗り込む。やっぱり女の子の気持ちを最もよく理解してくれるのは同じ女の子同士だよなあ。そんなことを思いながら束の間の女子会を楽しむべく私たちを乗せた車は軽やかに走り出すのだった。