ぬくもりに紛れる
こういう時、彼氏のスキルが高すぎてちょっと言葉を失う時がある。
「薬は」
「飲んだよ」
「カイロは」
「貼ってる」
「飲み物は生姜系のでいいですか?」
「うん」
いつものが来ちゃってお腹痛すぎて眠れない。なんの気無しに送ったそのメッセージを見て部屋まで来てくれた伏黒くんに感謝はしている。普通に嬉しいし。でもなんでこんなに甲斐甲斐しい? そしてこういう時の対処法よくご存知ですね。
部屋に備え付けられた簡易なキッチンでホットドリンクを入れてくれる後ろ姿を見ながらなんとも言えない気持ちになる。
「熱いから気をつけてくださいね」
「ありがとう」
両手で受け取ったカップからはゆらゆらと湯気が立っていて見ているだけであったまりそうだな、なんて思いながらゆっくりと口をつける。鼻から抜ける生姜の香りが好きになったのは伏黒くんと付き合い始めてからだと思う。
「ねえ伏黒くんってなんでこんなに……その、女の子の扱いに詳しいの?」
聞き方があまり良くないとは分かっているけど気になったから聞いてしまった。勝手なイメージ、そういうの調べて実行するタイプって感じには見えないんだけど。
「言ってませんでしたっけ、俺姉貴がいるんである程度のことはなんとなくなら分かります」
「あーなるほど」
そう返しながらもう一度カップに口を付けて、そっか、なんだ。と心の中で安心した。安心、そう安心したのだ。
「もしかして別のこと考えました?」
「別って?」
「過去の交際相手的な方で」
そう言って普段あまり見せない挑発的な笑みを向ける伏黒くんから視線を逸らす。悔しいけど図星なんだもん。
「……あたり」
「ははっ、なまえさんでもそんな事考えたりするんですね」
こんな風に素直に笑う伏黒くんは珍しい。ヤキモチ妬かれて嬉しかったりするのだろうか。
「するよ、伏黒くんのこと大好きだし」
仕返しのつもりでチラリと視線を送りながら言えば、さっきまで笑っていた薄い唇がキュッと真横に結ばれて言葉をつまらせた。
照れた? うん、照れたな。
彼氏が歳下だからってわけじゃないけど人に甘えたり本音を打ち明けるのが苦手な私が、不思議と伏黒くんには甘えてみてもいいかなって思ってしまう。多分それだけ好きなんだと思う。
「あんまり不意打ちしないでください」
「不意打ちだった? 私心の中では割とよく好きだなーって思ってるよ?」
「だから、そういうのです」
形勢逆転。今度は視線を逸らす番になてしまった伏黒くんに笑いながら薬のせいか、このあったかくて穏やかな時間のせいか痛みのことはすっかり忘れてしまっていた。