痛い痛いもどこへやら
なにこれ、今月なんでこんなに重い……?
毎月それなりに痛くはあるけど今月は普段の比じゃない。もしかしてどこか悪かったりするのかな、そんな小さな不安を抱きながらソファに身体を沈めていると玄関の鍵が解錠される音がしてもう一人の家主の帰宅を知らせる。
「ただいま〜。あれ、どうしたの?」
こんな早い時間に帰宅した恋人は珍しい。普段なら一緒に過ごせる時間が長いことが嬉しくて笑顔で出迎えるところだけど今の私にさすがにそれはできなかった。
「おかえり。ごめん、察して」
お腹にブランケット、その内側には小さな湯たんぽ。それを見るのが初めてじゃないからすぐに察してくれた悟は「顔色悪いね」と私の額にかかった前髪を優しくかき上げる。
「暖房入れたら?」
「んー、そこまでじゃなくない?」
「冷えは大敵なんでしょ。そんな格好しといて我慢しないの」
言いながら目隠しを外してそのままの流れで暖房のスイッチを入れる悟を眺めていると「それとも僕にあたためて欲しかった?」と青い双眼が優しく微笑む。
「隣に座って暖取らせてくれるくらいがちょうどいいです」
「ハイハイ。過度な戯れ合いは今はいいってことね」
私の気持ちをよく理解してくれてる悟にクスリと笑えば「何笑ってんの」と唇をわざとらしく尖らせながら隣に腰を下ろす。だからそのまま悟の肩に頭を預けて、ふうっと小さく息を吐いた。
痛みが和らぐことはなくてもこの安心感は悟がいるからこそだ。
「あ、そんなに痛いのが毎月ツライなら来ないようにしちゃおうか」
「え?」
「ほら、来なくなる期間ってあるでしょ」
ニッコリ。その笑顔と言葉の意味がわからないほど私は子供じゃない……じゃないけど、結婚してるわけでもないのに急に何を言い出すんだ。
「馬鹿じゃないの! じゅ、順番ってものがあるじゃんっ」
「今時順番とか関係ある?」
「あるよ、心の準備とかもいろいろある!」
どうしようもなく慌て始める私を見て一頻りケラケラと笑った悟は「じゃあ心の準備しておいてね。僕はいつでもそうしたいと思ってるから」と無駄に整った顔で言うものだから上手く言葉が返せなくなってしまった。
って言うか、そんな大事なことこんなコンディションの時に言わないでよ!