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星祭り



陽も傾き始める時刻。今日の分の仕事にある程度きりが着いたところで固まった身体を動かすように大きく伸びをしていると、廊下を大きな影が通り抜けていくのが見えた。一体何事だろうと慌てて扉を開けばそこには大振りの笹竹を担ぐようにして運んでいる虎杖くんの姿があった。

「え、なに?」
「なまえさんおつかれー! ねぇ、これいい感じだよね?」

いい感じ、とは? と思ったものの壁に掛けられていたカレンダーを見てピンと来た。

「もしかして七夕だから?」
「そう!」

親指を立てて笑う虎杖くんは相変わらず無邪気だ。その身の内に宿儺を飼ってるなんて到底思えないほど。

「虎杖、真希さん達も呼んでくるからそれ目立つとこに設置しとくのよ!」

そう声を大にしたのは野薔薇ちゃんで、私の姿を発見するなり「なまえさんも一緒に短冊書きましょー!」って手を振ってくれる。本当になんて可愛い子達なんだろう。
補助監督の私には分からない苦労の中で生きているここの子達は誰も彼も歳下なのにとても強い。だけどこんな風にちゃんと年相応というか少し幼いというかそういう部分もあって可愛いと思ってしまう。

「うん、是非仲間にいれてね」

二年生のクラスへと駆けていく野薔薇ちゃんは私の返事を聞いて笑顔を向けてくれる。正直短冊を書き笹竹に飾るなんてもう何年もしていない。多分最後は小学生くらいかな? だから高校生にもなってこういうことを素直に楽しんでいる風の二人には素直に笑みがこぼれた。


暫くして無理矢理引きずられてきた伏黒くんと二年生達がみんな揃った。もうすぐ陽も傾く時間だし任務のない日くらい早く寮に帰って休みなよと言いたかったけど、何だかんだ楽しんでいるように見える皆にそれを言うのは野暮だよなあ、と思いながら輪の端っこで短冊とペンを片手に何を書こうかと悩んでいた。今一番叶ってほしい願いは事……って何だろう。

「こんぶ?」
「棘くん、もう短冊書いたの?」

湿気を含んだ空気と朱色に滲み始める空を見上げて悩んでいた私に声を掛けてきた棘くんは私の大切な恋人。と言っても付き合い始めて以降お互いに忙し過ぎて特に付き合う前と何も変わらないんだけど。そんな棘くんは私の問いに「しゃけ」と一言返して隣に腰を下ろした。

「野薔薇ちゃんさっきから何枚も書いてて可愛いよね。沢山願いごとあるんだろうな、そういう年頃だもんね」
「ツナ」
「棘くんは何枚書いたの?」
「明太子」
「へぇ、じゃあそれかなり大切なお願いなのかな。一つだけに絞れちゃう程本気のやつってことでしょ?」

皆んなで短冊を書き始めてまだそう時間も経っていないのに既に書き終えたという棘くんのたった一枚の短冊のことが気になった。

「なんて書いたの?」
「おかか」
「え〜気になるなあ」

言われるとは思っていたけど教えて貰えないとそれはそれでとても気になってくる。大好きな棘くんのお願いってなんなんだろう。みんなどこか思考が大人びてはいるけど言っても高校生、思春期真っ只中の男子高校生らしいお願いの可能性だってあるよね。でもとびきり優しい棘くんだからみんなの身体を案じる系の可能性もある。

「すじこ?」

短冊に書く自分の願いごとよりも棘くんの書いたの願いごとが気になって小さく唸りながら考え込んでいると隣から不思議そうに顔を覗き込まれて今までに無いくらい近い距離で視線が絡む。一瞬、少し離れた位置で楽しそうに笑い合っている他のみんなの存在が私の中で都合よく薄れていった。
だからもう少し棘くんに近付いて口元を隠す制服を指で優しく引き下げる。そして彼特有の呪印の繋がる薄い唇にそっと自分のそれを重ねた。

「っ!?」
「ふふっ、奪っちゃった」

ほんの一瞬の事だったけど離れたあと棘くんの頬がみるみる赤くなっていくものだから可愛くて愛しくて、自分でしておいて高鳴る胸を誤魔化すように笑いながらそんな言葉を吐いてみる。

「ツ、ツナマヨ!」
「えっ? 見てないよ?」

急に「もしかして見た!?」なんて言う棘くんになんのことかと思いながらもそう返すと、まだ赤みの残る顔を両手で覆ったまま溜息混じりに俯いてしまう。何なんだろう、見た、って……

「あっ!」

その単語にピンと来て立ち上がり、立派な笹竹に駆け寄って既に結ばれている幾つかの短冊の中からソレを見つけだした。

「ふぅん、やっぱり棘くんも普通の高校生だね」

ひらひらと優しい風に靡く青色の短冊。そこに書かれたあまりにも素直で甘美なお願いに無意識に口端が持ち上がってしまう。そのままチラリと棘くんの方を見れば、赤い顔のまま気恥しそうに視線を逸らす姿があって余計に笑みが零れた。

【 もっと恋人らしいことが出来ますように】

いくらでも進めてくれていいんだよ? 私は棘くんのことがこんなに大好きなんだから。