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クレオメの咲く頃に



窓の外は晴天。季節的には秋だと言うのに外気温は夏みたいな数値を叩き出している。朝晩以外でも外で涼める気温が恋しいな、そんなことを思いつつ空調設備の整った書庫で呪いにまつわる資料の整理をしていた。
一人で行っていれば溜息ものだが今は違う。だってこの棚の裏側には私の大好きな人がいるから。優しい彼は時間があるからと進んで私を手伝ってくれていた。

「やっぱり完璧すぎる」

幸せに浸りつつそうこぼすと、すぐ横から鼓膜を揺らす声がした。

「高菜?」
「っ、棘くん! そ、そっちの分終わった?」
「しゃけ」

お願いしていた分を片し終えた棘くんがいつの間にか隣に立っていたのだ。気を抜いていたとはいえ少し恥ずかしい。だから慌てて自分が手にしていた残り数冊の本を棚に戻した。
棘くんのことを考えていたのを悟られないようにすればする程逆に不自然な態度になってしまうし、顔には余計に熱が集まる。私の方が歳上なのにこんなに余裕がないなんて悔しいような、恥ずかしいような。

「すじこ?」
「ん、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」

最後の一冊は少し上の方の棚で、背伸びをしてそれを戻そうとした私を首を傾げて下から覗き込んでくる。それはまるで何かを企む、可愛くて小聡明い女の子みたいな上目遣い。

「こんぶ?」

そして極めつけの「ほんとに?」である。
元々性格だけでなくその綺麗な白橡色の髪も、半分隠しているのが勿体ないくらいの整った顔も大好きだから心臓は容易に鷲掴みにされてしまった。

「ほんっ、と、だよ……」
「おかか」

じいっと見つめられれば視線を逸らせなくなってしまう。態とらしく小首を傾げて見上げてくるから少し動く度に流れていくサラサラの髪が何だか色っぽい。もう見るのやめてほしい。
棘くんが若干屈んでいるとはいえ私の浮かせていた踵を地面に着ければ二人の距離は殆どなくて、無意識に呼吸を詰めてしまう。

「ツナマヨ」

「嘘ついた罰」そう言って口許の制服を指でズラした棘くんに触れるだけのキスをされた。
一瞬の事すぎて思考が追いつかない私は今どんな顔をしているだろう。ただ、人様に見せられた顔じゃないってことだけは分かる。

「棘くん、ここ学校っ、」
「しゃけ。明太子」

そうして慌てる私に棘くんは既に隠された口元に一つ指を立てる仕草をみせて「うん。だから二人だけの秘密」と言って笑うのだった。