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癒されるなら君が良くて



「嘘でしょ……」

任務を終えて眠気に襲われながら自宅に戻ったのは東の空も白み始めた頃だった。
エレベーターを降りたところで廊下に血の跡が点々としていることが少し気になってはいたけど、まさかその原因が自分の家の玄関前にあるとは思いもせずに持っていた手荷物を落としそうになりながらそこへ駆け寄る。

「五条! ちょっと!」

私の声に反応はない、だけど呼吸はある。特級相手の任務が立て続けにあると聞いてはいたけど五条の事だから特に心配はしてなかったのに。
とりあえず人目に触れるここはまずいと思い辛うじて開けることの出来た扉を開き、もはや引き摺るような形で大きな身体を室内に押し入れた。

出血は腹部のみのようで申し訳ないと思いながら服を裂き応急処置をする。思ったよりも酷くなさそうな傷にホッとしながらも、じゃあ他にどこを負傷したのかと心配になった。意識がない以上安心は出来ないし、内面的にダメージを受けていたとしたら処置は早い方がいい。呪いの可能性だって無くはない。
そう思って鞄の中からスマホを取りだそうと五条に背を向けた瞬間、右手首を掴まれて慌てて視線を戻した。

「硝子に連絡とか必要ないよ」
「え、」
「だから大丈夫だって言ってんの」

さっきまで気を失ったようにしていた相手がケロりとした口調でそんなことを言うものだから一瞬頭がパニックになる。なに、なんで起き上がろうとしてるの? 傷は? 怪我は? どこも悪くないの?
聞きたいことは山程あるのに言葉が上手く出てこない。

「ってか酷くない? この服僕のお気に入りだったんだけど、って……なまえ泣いてんの?」

泣いてる? 私が? なんでよ。
そう思ったけど指摘されて触れた頬には確かにあったかいものが伝っていた。……意味わかんない。だけど今心中にある感情は一つだった。全く気付かなかったし、気付きたくもなかったけどこの感情はどうやら本心らしい。そうじゃなきゃ都合よく涙なんて流れないだろうから。

「五条が死んじゃうかと思って、」
「えー、僕最強だよ?」
「知ってる! それでも不安だったし怖かったの!」

私の心配をよそに笑いながら言う五条に語気を強めて返せば、何故か嬉しそうな顔をして大きな手で私の頭をよしよしと撫で付けてくる。そして「やっぱりここに来て正解だったよ」って優しい声音で言うものだからもう何がなんなのか分からなくなった。





「信じらんない。寝不足だったからってなんで私の家の前で血流したまま寝ちゃうのよ」

聞けばほぼ三日三晩寝ずに任務を梯子していたらしい。そこに加えてまともに食事を摂る時間もなかったとか。上は一体五条をなんだと思っているんだろう。
私の準備した全体的に糖分高めの朝食を口に運ぶ五条を見ながら自分用のコーヒーを口にする。

「マジであいつら僕に頼りすぎだよね」
「少しくらい断ったりしないの?」
「僕が断ったら他の奴らにいくでしょ。それでちゃんと祓えるならいいけど、無駄死にさせに行くだけなら僕が行った方が効率いいじゃん」

それはそうだけど、と思う。でもこんな生活続けてたら五条の身体がおかしくなるじゃん。
何も言い返せないままジィッと食べる姿を見ていると手にしていたフォークがくるんと回って私の方を指した。

「それに僕はこうして好きな子にご飯作ってもらえて、一緒に添い寝でもしてもらえればそれで充分回復できるしさ」
「なっ、なに言って、」

さっき確信した自分がこの目の前の男に抱く気持ち。まさかそれをこの短時間で見抜かれたわけじゃ……。

「だから、なまえが好きだよって言ってんの」

宙色の双眼が私を捕らえる。余裕に満ちたその顔に悔しくなるけど、おそらく今の私の顔は情けないくらいに赤くて、きっと五条を余計に調子に乗らせてしまうんだと思う。

この展開で眠気もすっかり覚めてしまった。
さあなんて言葉を返そうか、それによっては次の任務までの時間の使い方が大きく変わる気がして静かに息をのむのだった。