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この花をあなたの髪に



はらはらと舞う桃色が膝の上で小さな寝息を立てているなまえの上に落ちていく。緩く弧を描く黒髪にはそれが映えて、まるでなまえを彩るために舞っているんじゃないかと勘違いしてしまいそうだった。
先日任務先で大怪我を負って高専に戻ってきたなまえは治療を受けて暫く安静の日々が続いていた。行動の制限が解けてすぐに会いに行けば「散り終えちゃう前に一緒に見たい」と懇願されたから、今こうして高専内にある桜の大木の下で二人束の間の時間を過ごしている。と言っても自分は夕方には任務に向かわなければいけないのだけど。

ここに着いてすぐは綺麗を連呼しながら風景やらツーショットやらと沢山の写真を撮っていたのに、そのあと少し話をしたら「眠くなってきちゃった」と言い出して、更には膝枕を強請られた。断るつもりはなかったものの、“一緒に”コレを見たかったんじゃないのか? と思ってしまった。
でもそれからあっという間に寝息を立て始めた姿を見ればやっぱりまだ本調子じゃないのだと言うことは言わずもがなで、こうして無理にでも会いたがるなまえがどうしようもなく愛おしく思えた。

手持ち無沙汰な時間を紛らわすように柔らかな髪を梳いていると、長いまつ毛の端に一片桃色が落ちてきて一瞬震える目蓋がそれを疎ましいのだと物語っている。起こさないように、そう思いながらそっと桃色を摘み上げて自分の頭上まで持ち上げ手を離せば、それは不思議と風に運ばれることもなくまたなまえの上に着地した。しかも形のいい唇の上に。まるで誘われているみたいだな、なんて都合よく解釈する自分に笑みが零れる。
穏やかで幸せで、なまえがちゃんと今生きていることに安心して、桃色越しのそこに自分の唇を重ねた。

「……棘?」

ほんの一瞬だったのに唇を離すと殆ど間をあけずに名前を呼ばれる。開かれた眼はまだ眠そうで、でも気恥しそうに細められていた。

「もしかしていつも私が寝てる時キスするの?」
「おかか!」
「冗談だよ。でもビックリした」

揶揄うようにクスクス笑うなまえから視線を逸らせば、強い風が一層桃色を運んでいく。

「ほんとに綺麗。……でも私ね、せっかく約束してたのにもう見れないかと思ったんだ」

その言葉が怪我を負った日の事だと分かって視線を戻せば柔らかく微笑むなまえに胸の奥が締め付けられた。

「だから一緒に見れて良かった」
「しゃけ!」

本当に、本当に良かった。生きていてくれて、またこうして笑顔を見せてくれて。気を抜けば泣きそうだった。だからそれを誤魔化すようになまえの頬を撫でてとびきり明るい笑顔を向ける。

「棘、もっかい」
「こんぶ?」
「もー、分かってるくせに」
「おかか」

可愛いお強請りにわざと分からないふりをすれば、伸ばされたなまえの両手に顔ごと引き寄せられる。

「もっかいキスして?」
「……しゃけ」

もう一回と言わず何度でもするよ、君がもういいと笑ってしまうくらい。