愛す
ただいま二十三時九分。突然ですがとてもアイスが食べたいです。
冷蔵庫の前、それがストックされている引き出しを開けて目的のブツと睨み合う。別にダイエットとかしてるわけじゃないけど、大体二十一時を超えたあたりから何か間食をすることがとても悪いことのように思えるのは一応私も女だから、だと思う。
そんな欲求との戦いをもうじりじりと五分以上も続けているから正直自分では決め兼ねる状況になっていた。こういう時は他人に決めてもらおうと、ソファで寛いでいた棘くんに声を掛ける。
「ねぇ棘くん、こんな時間だけどアイス食べてもいいと思う?」
名前を呼ばれてテレビから視線を外した棘くんは呪印を晒した顔で私を見た。そしてすぐに私が両手に持った種類違いのアイスを見る。
「おーかーかー」
「えー、ダメ?」
棘くんならいいと言ってくれるかと思ったけど意外と厳しい。なんなら一緒に食べてくれると思ったのに。まあいいと言われると期待して聞いた私も私だけど。
ダメと言われてもなお、うーん。と悩み続ける私の元にやって来た棘くんは私の手からアイスを取り上げるとササッと冷凍庫に戻してしまった。
「棘くん意外と厳しいね」
「明太子」
頬を膨らませて言えば脇腹あたりをつつかれる。まさかお腹の肉を気にしろということだろうか。
「えっ、もしかしてやばい?棘くん嫌いになっちゃう?」
その反応に咄嗟に慌てた声を上げれば、笑いながら首を横に振ってくれる。きっとここに肉が付くからダメだと言って窘めてくれているのだ。けどどうにもさっきから口寂しい。
「わかったアイスはやめる。だけどなんか口が寂しいんだよね。ガムでも買ってこようかな」
「おかか。すじこ?」
私の言葉を聞いた棘くんは“おかか”とその提案を払いのけてトントンと自分の唇を指差した。制服にもマスクにも覆われていない薄い唇に続く蛇の目が私を捕らえている。
「えっ、いや、そういうのとはちょっと違うというか…」
「こんぶ!」
ほら早く!と促すように微笑まれては困ってしまう。
“ 口が寂しいならキスをしよう? ”
そう言われているのが分かるから。
私が困ると分かっていて意地悪な笑みをたたえて私の手を引く。バランスを崩して縮まった距離にドキドキするのは私だけなのかな。と思ったけど、ほんのりと朱に染まる棘くんの耳を見てなんだか胸の奥が擽ったくなった。