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りんご飴な君



花火大会なんていつぶりだろう。幼稚園?いや、流石に小学生の頃までは来てたかな。
花火が嫌いとか興味がないとかそんなんじゃない。ただ花火大会って凄い人でごった返すし暑いし個人的に“感動 < 疲労”としか思えないだけ。


「きゃー及川さんと会えるなんて嬉しいです!」
「そう?僕も嬉しいよ」
「浴衣姿も素敵ですっ」
「ありがとう」


後方で聞こえる黄色い声と、どっからそんなに出てくるんだ?と思ってしまう軽い返事。だいぶ聞き慣れて来たそれに小さく溜め息を吐いて私は目的の屋台へと一人足を進めた。


「ちょっとなまえちゃん!急にいなくならないでよ、探すでしょうが」
「及川先輩、今時誰だって携帯型連絡ツール持ってるんですからそんなに焦らなくても大丈夫ですよ?」
「いや、そうだけど。って言うか何、その表現」


屋台の列に並ぶ私を発見した及川先輩は凄い形相で私の横まで来てそう言ったけど、列の後ろの女の子達に声をかけられると何事もなかったかの様にまた愛想を振りまいている。横目にそれを見ながらまた溜め息を零しているといつの間にか私が列の先頭に来ていた。


「よし来たお嬢ちゃん、いくつだい?」
「えっと、じゃあ…」


·


「いい加減お説教もんだよ?」


再三視界からいなくなる私にいい加減怒ったのか、及川先輩は私の手を掴んで今まで見せたことのない表情を私に向けている。


「暑いです先輩、離してください」


大体悪いのはどっちだ。楽しそうに話してるから邪魔しちゃ悪いと思って一人でフラフラしてただけなのに。それに私はちゃんと先輩の居場所は確認してた。


「ダメ。もう今日は離してやんない」
「本当にやめてください。先輩みたいな人と手繋いでたら身が持ちません」
「えっ、照れて?」


さっきの怒った表情はどこへ行ったの?と思うくらい一気に瞳を輝かせる先輩は本当に百面相だと思う。


「違います。人目に晒されるじゃないですか、先輩目立つから」
「なまえちゃんも漸く俺の魅力に気付いたみたいだね」
「……」


思ったことをそのまま言っただけなのにこの人はどうしてこうも物事をプラスに捉えられるんだろう。呆れも通り越し尊敬すらしたくなるその性格には既に返す言葉が見つからなかった。


「もうどこにも行きませんから手は離してくれませんか?」
「えー」
「えー、じゃなくて!」


被せる様に言えば渋々手を解放してくれた。


「代わりにコレあげます」
「りんご飴?」
「嫌いですか?」


キョトンとした顔をする先輩に訪ねると「ううん」と不思議そうな返事が返ってくる。


「私小さい頃から好きなんです。お祭りに来たらりんご飴だけは絶対食べなきゃって思っちゃうんですよね」
「どういうとこが好きなの?」
「色?フォルム?とにかくなんか可愛いくないですか?」


先輩より少し先を歩いていた私は、振り返ってりんご飴を片手に笑って見せた。けど先輩はりんご飴を口に運ぼうとしたままなんか固まってて、目は合っているのに心ここに在らずって感じ。


「先輩?」
「あっ、うん。可愛いね!美味しいし!」
「?」


急に我に返った先輩は「ほら場所取り行くよ!」と、離したばかりの手を再度握ってカラコロと下駄を鳴らしながら歩いていく。


「ちょっと、手!及川先輩!」
「やっぱダメ。離れられても困るし、見せつけたいしね!」


?、何言ってるのこの人。


「意味わかりません」
「いいよ、まだ分からなくて」



−そのうち君から言わせてあげる−





(おまけ/及川視点ver)

一つ年下のなまえちゃんはとことん鈍い。と言うか俺に興味が無い。俺がこんなに猛アピールしているのに全く気付かないどころか靡く様子すらほんの1ミリも見せやしないのだ。
なんとか誘い倒してOKを貰った今日の花火大会だって、俺は浴衣なのになまえちゃんはシンプルな真っ白のワンピース。髪の毛だってアレンジどころかいつもの様にサラサラの長い髪を靡かせたままだ。まあそれでも沢山の人の目を引いてしまうのが彼女なんだけど。


「…男女逆だろ」
「何か言いました?」
「別に」


こうしてふてくされてみても全く構ってくれないし、今までこんな女の子に出会った試しがない俺としてはどう対処したらいいのかわからない。けど惹かれたのは俺の方で、傍にいたいと思うのも俺だから自分でどうにかするしかないわけで。

特に人の多い屋台の並ぶ通りを歩けば同校の女の子や逆ナンしてくるお姉さんやらに声をかけられる。少しは妬いてくれたりして。なんて思うけど、なまえちゃんにそれは通用しない。というか俺を置いて先にどっか行っちゃう始末だ。


「いい加減お説教もんだよ?」


少し本気で怒った態度を示してみても全く動じないし、どさくさに紛れて手を握ってみても「離してください」とか。他の女の子が聞いたら怒っちゃうんだからな!頭ではそう思ってても「身が持ちません」ってワードがなまえちゃんから発せられただけで容易にテンション上がる俺は今回大分本気なんだと思う。
何もしなくても自然と寄ってくる子達より、思い通りにならない子程気になる、と言うのはこの事だろうか。


「先輩?」


手を離す代わりに渡されたりんご飴。なまえちゃんがりんご飴が好きってだけで、いつものドライなイメージが一気に女の子らしさと可愛さを引き連れて来てんのに、更に俺の分まで買ってくれてて、(りんご飴についてだけど)楽しそうに話しながら振り返り様に笑顔を向けるなまえちゃんに目を奪われるのはしょうがないことだろ。
あー、やっぱ俺のものにしたい。他の誰にも渡したくないし、さっきみたいな笑顔は俺だけに向けて欲しい。


「ちょっと、手!及川先輩!」


再度手を繋いだ俺に容赦無く避難の色を含んだ声を投げつけるなまえちゃんは無視して、俺はその手に力を込めた。


「やっぱダメ。離れられても困るし、見せつけたいしね!」


「意味わかりません」と言うなまえちゃんだけど、いつか嫌でもわかる様にしてあげるから覚悟しててよね。
“及川先輩が好きです”って、必ず言わせてあげるから。