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君の幸せを願うけど



大好きな人がいた。音駒に入学したその日に一目惚れした人。爽やかで優しくて女の子なら一度はときめくような、そんな人。
1年の頃からクロには事あるごとに相談していたけど「諦めも肝心だぞ」といつも言われるばっかりで釣り合ってないのは自覚してた。でも想うのは自由だ!そう思ってずっとこの気持ちを温めていたのに…。


「なまえの好きな人、おれのクラスの麻倉さんと付き合ってるよ」
「え、」


とある昼休み、クロと同じバレー部で可愛い後輩である研磨の口から突拍子もなく発せられたその言葉に私は飲んでいたジュースを噴き出しそうになった。


「う、うそ」
「本当」


今の今まで好物のアップルパイを食べながら食い入る様に見ていたスマホから視線を外し私を見る研磨の瞳は……嘘は吐いていない。


「いつから?」
「少し前、クラスの女子達が話してた」


研磨と同じクラスの麻倉ちゃんって確か2年生の中でも飛び抜けて可愛いと噂の子だ。そんな子と比較されたら勝てっこない。まあ勝つも何も私は目で追うばかりで何も行動してなかったんだからそんな資格すらないけど。


「なまえ?」
「あ、うん?」


研磨の呼び掛けで我に返ると心配そうな表情で私を見る研磨が「ごめん」と言った。


「なんで謝るの?」
「なまえが傷付くと思って今まで言えなかったから。もっと早く教えとけば良かったよね」
「そんなの気にしなくていいよ、ありがと」


泣きたい気持ちを押し殺して笑顔を向けると、研磨は手に持っていたアップルパイを半分に割って差し出してきた。


「あげる。甘いもの食べたら少しは嫌なこと忘れる、かも…」


少し視線を逸らしながら、律儀に大きくて口をつけてない方を差し出す研磨に笑みがこぼれる。慣れないことするんだから。


「じゃあこっち貰う、今お腹いっぱいだし少しでいいよ」
「あ、ちょっと」


研磨の手から小さくて食べかけの方を奪ってポイッと口の中へ放ると、少し顔を赤くしている研磨が可愛くて悲しかった気持ちがやんわりと引いて行く気がした。


「…今くらい積極的になってたらよかったんじゃない」
「えー、そんなの無理」
「俺には出来るくせに」
「研磨は特別だもん」
「……」


私の答えに黙る研磨。


「研磨?」
「クロにも出来る?」
「え、クロ?んー、クロはなんか違うかなあ」
「…そっか」


質問の意図はよく分からないけど、なんだかホッとしたような研磨の表情を見て「うん」とだけ答えておいた。


「今度今日のお返しに私がアップルパイ焼いてきてあげるね」
「楽しみにしてる」



−これも一つの独占欲?−




君の幸せは確かに願っているけど、“いつまでもこうして隣にいて欲しい”そう思ったりもするんだ。