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1、2、サン、ダァァァ



※途中で人称変わります。








窓を開けると暗くなってても分かるほどに灰色の雲が垂れこめていた。しかも遠くではゴロゴロと雷鳴まで聞こえる。げっ、これ雷雨くるんじゃね?
勿論俺が置き傘など持っているはずもなく「お先失礼しまーす!」と部室に残った面々に声をかけて急いで外に出た。
これはマジでくるな、家に着くまでなんとか保てよ。そう思いながら校門を抜けた時、ピカッ!と雷雲の中を稲妻が走った。


「キャッ」


それにビクッと反応した俺と同じくらいのタイミングで小さな悲鳴のようなものが聞こえ、恐る恐る暗闇に包まれた辺りを見渡すと左側の門の傍に蹲る女の子の姿があった。


「っ、」


“女子” が目の前にいる。ただそれだけで体温が勝手に上昇して行く。両耳を塞ぐように頭を抱えて蹲る姿は怖がっているのだろうが、どう…声をかけたら良いんだ。
最近俺の中で一番の課題でもあるそれにぶつかりつつも、怖がっている女の子に声もかけてやれないなどあってはならない!そう思って、恐る恐る口を開いた。


「あ、あの…ダイジョーブ、ですカ?」


緊張し過ぎてガチガチの言葉しかかけれなかった俺をその子はゆっくりと見上げた。暗闇の中でかち合った瞳には涙が溜まっていて今にも零れ落ちそうにゆらゆらと揺れている。


「……虎、くん?」
「ッハイ、ぇえっ!?」


はっきりと顔は見えないが、潤んだ瞳で下から見上げられただけでノックアウト寸前だというのに、な、名前っ…なんで知ってるんですか俺の名前!ファンですか!?


「虎君来たなら、もうすぐ来るかな」


不安そうな顔でそう言いながら立ち上がったその子の言葉すら今は耳に届かず、バクバクと破裂しそうな心臓と思考を抑えるのにいっぱいいっぱいだったその時。

ピカッ、ドーンッ!


「キャァァッ!!」
「ッダァァア!!」


バリバリと音をたてながら割と近くに雷が落ちた。それぞれに叫び声を上げた俺達だったが、その意味は全くの別物。その子は恐怖のあまりに叫び、俺は恐怖のあまり俺の胸に飛び込んで来たその子の行動に叫んだのだ。


「もう、やだっ…怖い怖い怖い」


俺の胸元の服を掴みながら震える女の子。近い、柔らかい…そして、いい匂い…だ。
龍よ…俺は今、大人になったぜ。




遠い地の心の友へわけの分からない思考を向ける山本の脳内を他所に、その二人の姿を目にした者達がいた。




「おーい、山本」
「ちょっと」


ほぼ同タイミングで声を発したのは黒尾と研磨。黒尾は山本の首根っこを掴み、研磨はその女の服を掴む。


「へ?ぇ、クロさん…」
「何やってんの、お前」
「!、研磨ぁ!」
「虎なんかと何してるの?」
「おい!なんかとは何だ研磨!ってか、知り合い!?」


怖い笑顔で黒尾に睨まれながらも研磨の発言に喰いかかる山本はまだ今の状況がうまく理解出来ないのか、目の前の黒尾といつの間にか自分から離れ研磨に抱き付いている女を見て頭に?を浮かべている。


「山本可哀想に」
「幼馴染って一番難しい距離感だよな、友達以上恋人未満みたいな」
「ああ確かに」


少し離れた位置から前方の四人を眺める海と夜久の目は全てを悟った様なものだった。


「虎と一緒にいるとうるさいの伝染るよ」
「え?」
「あと馬鹿も伝染る」

「で、君は何を真っ赤になってんのかな?相手はたかが名前だぞ」
「えっ!!苗字先輩っ!?…気付かな、かった」
「ちょっとクロ、今の聞き捨てならないけど」


黒尾の言葉で相手の正体を知った山本は、ボフンッ!と一気に顔を赤らめ、名前は研磨から離れ黒尾に詰め寄る。


「…ねぇ、早く帰らないとまた雷、」


ピカッ!


「キャァァァアッ!!」


叫びながら今度は黒尾にしがみ付く。


「お前、怒るか怖がるかどっちかにしろ」
「だって、怖いんだもん!私が雷苦手なの知ってるくせに、クロのバカ!」
「分かったからそんなにきつく腕組まないでくれるかな名前さん。黒尾さんの腕、血が通わなくなってんだが」
「だ、だって、私に落ちたらどうするの?」
「俺は避雷針か」
「うん」
「…そうかそうか、なら残念だったな」
「え?」
「こんなにがっちり腕組んでたら仲良く感電コースだ」


ニヤリと笑う黒尾を見て名前は腕を離そうともがくも、こういった思考を向けた時点で今更そうさせてくれる程黒尾は優しくない。


「や、やだっ離してー!」
「遠慮すんな、このまま家まで送ってやるって。ドキドキするだろ?」


意地の悪い顔をしてズルズルと名前を引っ張って行く黒尾と名前の後ろを研磨が呆れ顔で着いて行く。


「…またやってる」
「研磨助けて!」
「無理、自分で頑張って」
「研磨が意地悪だぁ」


そんなよくあるやりとりは遠くに落ちた雷で掻き消された。


「山本帰らねぇの?そろそろ本当に雲行きやばいぞ」
「…夜久さん、俺、雷に撃たれみたいっス」
「…ああ、そう。まぁ程々にして帰れよ、本当の雷落ちる前に」


抱きついて来た相手の正体を知ってから呆然とする山本を校門の前に残して夜久と海も歩き出す。


「あいつ、苗字に惚れたかもな」
「だったら本当に可哀想な奴だな山本は」
「はは、そうだな」





−その日俺は雷に撃たれました−