眩しい陽光が降り注ぐ。
風のないからりとした空は、高い。





「…心配、なんだな」




そんな空の下、八雲のぽつりとした呟きが静寂を静かに破り、響いた。
その目は柔らかく細められて。





「あぁ、…全くだ」




そして穏やかに、小さく笑う。
その瞳はどこまでも優しい色を湛えていた。




「本当にあいつはいくつになっても危なっかしいし、相変わらずトラブルメーカーだし、脳天気だし、」


「…あぁ、お人よしも健在だ」




そして言葉を切って、そっとしゃがんだ。







「…あと、君と同じで、優しいままだ」







そう、愛おしむように左目を細め、笑った。




さぁぁっと、風が吹きぬける。
鮮やかな緑の葉が舞い上がり、突き抜けるような青に消える。






「大丈夫。あいつはもう、大丈夫だ」





そして力強く言葉を零し、何かを掴むようにその手を伸ばして、触れた。




「ちゃんと、前に進んでる。君を忘れることはないよ。君と進んでいこうとしてるんだ」

「僕も、一緒に」





そうどこまでも穏やかに、言葉を紡いで。
そして何かを包むように、両の手を添えた。

包んで、いるのだ。


そして真っ直ぐと、見据えた。







「僕が、幸せにするよ」








だから、安心してくれていい。


そう、強い想いを込めて、確かに呟いた。

まるで、誓うように。









一際、強い風が吹いた。


それは八雲の髪を揺らし、葉を揺すり、空へと舞い上がるように高く、高く、優しく、強く。







八雲は目で追うように空を見上げた。

雲一つ、なかった。









ありがとう

小さく響いたそれは、優しい声だった。













「八雲くん」


ふいに明るく澄んだ声が空気を震わせて。
ゆっくりと振り返れば、晴香が駆けてきた。



「君はどこまで水を汲みに行ってきたんだ?」
「途中でこぼしちゃって…」



えへへ、と恥ずかしそうに笑う顔に、八雲も釣られて笑みを零す。



「…君のお姉さんの気持ちがよく分かるよ」
「え?何か言った?」
「何でもない」



ほら、早く。

そう八雲が急かせば、晴香も慌てて歩み寄る。

そして、目の前の墓石を優しく見つめた。
あの時の、小さなまま止まっている、最愛の姉の姿を思い浮かべて。

そっと静かに膝をおり屈む。



「今日はお姉ちゃんに報告があるんだよ」



そう、微笑んだ。
そして、



私、結婚するの。



はにかんだように幸せそうに、そう告げた。










「…あ、」


一陣の風が、吹き抜けた。







その瞬間、晴香は何かを感じたように目を見開いた。
真っ直ぐ前を向いたまま、息をのんだようにじっとして。




「…おい、」
「八雲くん、お姉ちゃん、居た?」




ようやく口を開いたその静かな呟きに、八雲は小さく驚いた。
それはどこか確信めいていて。



「…どうしてそう思ったんだ?」



そっと八雲が返せば、晴香はゆっくりと顔を上げた。
その目には、大きな涙が浮かんでいた。


瞬きとともに、一滴こぼれ落ちた。






「お別れを、言われた気がしたの」





そう、絞り出すように呟けばまた一滴、その頬を伝った。




「もう、大丈夫だねって、さようならって、」




そう、言われた気がしたの。


そうして、ついには堪えきれずにぼろぼろと涙を流した。
肩を震わせ、唇を噛み締めて。
何故こんなにも息が詰まるのか、何が胸を占めているのか等、晴香自身も分からないままに。嬉しさも、愛しさも、苦しさも、悲しさも、全部ぜんぶをないまぜにして。





「…お姉さんは安心したって、笑っていたよ」


君は愛されているな。





そう八雲は晴香を抱きしめて。
しがみつき、声をあげて泣きじゃくる晴香の頭を優しく撫でた。














ずっとずっと見守ってるよ
ずっとずっと、愛してる。




「私、今よりもっと幸せになるよ」


そんな晴香の呟きは、風にさらわれた。











clap?





(2012/7/13)






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