「うん、気持ちいい!」



パンッと、シワが伸ばされ丁寧にアイロンがかけられたワイシャツを掲げ、晴香は満足そうに顔を綻ばせた。


アイロンがけも上手くなったなぁ。


パリッとしたシャツに自分でそう自賛して、満足げに畳もうと膝に置く。

と、その瞬間。





ふわり、


真っ白なワイシャツから、柔らかな洗剤の香りがした。
そして、暖かな陽の香りも。
それから―…




鼻腔を擽ったその香りに、晴香はじっとワイシャツを注視して。





「アイロンかけたばかりだけど…」




ちょっとくらい、いっか。


なんて、少し躊躇して、結局誘惑に負けて。その白い生地に顔をそっと埋めた。


洗剤とお日様と、八雲の香りがした。





「幸せだなぁ…」

大好きな香りに包まれて、ぽつり、と零れた。

心から、そう思えた。


自然と、ぎゅうっと力が入ってしまったが、アイロンをかけ直せばいいやと気にしない事にした。














「君は何をしてるんだ」





唐突に聞こえた声に、晴香は弾かれたように顔を上げた。


その先には、起きたばかりの八雲が立っていて。




「えっ!あっ、これは、その!」



見られてしまった恥ずかしさが込み上げて、晴香はしどろもどろに狼狽える。
当然、八雲がどんな表情でいるか気付きもせず。




「ア、アイロンかけてたの!」
「へー。それはアイロンをかけた後のように見えるんだが」
「〜っ」


まぁ、君が抱きしめたおかげでぐちゃぐちゃだけど。


八雲はそうしれっと言う。
晴香は頬を染め上げてぐうの音も出ない。



そんな晴香をじっと見つめ、八雲はソファに腰掛けた。


そして、


「ほら」


そう言って、両手を広げてみせた。


「えっ、八雲くん…?」


突然の八雲の行動に戸惑い晴香は困惑するが、それでも八雲は無言で晴香をみつめたまま。

腕も広げたまま。



仕方がなく晴香はおずおずと近寄り、その胸の中にそっと身を寄せた。






ぽすり



満足そうに八雲は晴香を抱きしめて。

そしてそのまま、



「、きゃっ!?」



くるりと反転し、倒れこんだ。


あまりにも突然の出来事で。
晴香が驚きからつむった目をそぅっと開けば、八雲の顔と、その後ろに天井が見えた。



「あ、あの、八雲くん?」



何故いきなり押し倒されているのか、そして、自分を見つめる八雲の瞳が、どうしてそんなに熱っぽいのか。



晴香はこの後の予感に身を震わせながら、声をかけた。



バチリ、と
その瞳とぶつかった。

そして。




「君が、悪い」




そんな呟きと共に、ゆるゆると八雲が下りてきて。

何が悪いのかと抗議する間もなく、その唇に塞がれた。











大好きな匂いに包まれて

やっぱり幸せだと、蕩けた頭で考えた










clap?








(2012/7/1)






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