ちらり。
また、だ。
「ねぇ、八雲くん」
「…何だ?」
そっと呼びかけてみれば、先程からさりげなくこちらを覗っていたその双眸が、今度こそ真っ直ぐとこちらに向けられた。
引き込まれそうな程綺麗なその赤を、見つめかえす。
じっと私を見つめる瞳は、どこか不安げで心配そうで。
「…どうかしたの?」
思い切ってそう問い掛ければ、八雲がほんの少し驚いた顔をした。
まさか気付かれているなんて。そんな、顔をしていた。
「別に何もない」
けれど、すぐにいつもの寝ぼけ眼の顔に戻った八雲は、しれっと言い放つ。逸らされた視線が、どこか罰が悪そうで。
明らかに何かあるその態度に、思わずむっとした。
部室を訪れた時からこちらを見つめるその瞳の違和感に、気付いていた。
そしてこれは今日に限ったことではなく、よく、ある事だった。
それは、例えば、明け方の八雲の腕の中。
ぎゅっと力強く抱きしめられて目を覚まし、そっと顔を上げた先。そこにはどこか心配そうな色を浮かべて何かを確かめるように私の事を見る、八雲がいるのだ。
今まで、気付かないふりをしていたけれど。
「言いたい事があるなら、言ってよ」
なんでそんな瞳で見るのか。
愛おしむように慈しむように労るように心配そうに。そして、そんな日はどうして決まって優しいのか。
私は八雲のそんな表情に、いつも胸がきゅっと締め付けられた。
「……」
言いあぐねているのか、八雲は黙ったまま頭をかいていた。
落ちた無言にいらぬ心配は掻き立てられて。
「言いたくないなら、いいよ」
ぽつりと俯きながら、口を尖らせた。
すると、はぁっと小さく、息をつく音がして。
視線を上げて見れば、頬をつき、いつの間に開いたのか目線を手元の文庫本に落とした八雲が、口を開いた。
それは、とてもとても小さな声で。
その言葉に思わず目を見開いた。
微かに目元を染めて八雲がふてぶてしく呟いたその言葉は、しっかりと私の耳に届いて。
「大丈夫だよ」
そう満面の笑顔を向ければ、八雲は少し安心したように眉尻を下げて小さく笑った。
きみが泣いてる夢をみた
(泣かないよ。)
(だって、あなたが側にいるから。)
clap?
(2012/6/14)
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