ちらり、右手を見てみる。

自分の倍以上あるその大きな手は、簡単に自分の手を覆っていた。
大きくて、温かい、大好きなその手。


奈緒は嬉しくなって、ニッコリと笑った。



『何だ、奈緒』



すると声が聞こえた。
幼い頃から、聞き慣れた声。それは頭の奥に優しく聞こえる“音”。



『ううん、何でもないよ』


奈緒は右手を辿った先、不思議そうな顔をした兄と目を合わせ、ニコリと笑う。ますます不思議そうな顔をした兄に、奈緒はまた笑う。



『随分と楽しそうじゃないか』
『うん!』



優しく目を細め、小さく笑いかけてくる兄。
その温かい笑顔も兄の大好きなところの一つだ。
奈緒は元気よく頷いてみせた。

良かったな、そんな優しい声がした。




ちらり、今度は左手を見た。

兄ほど大きくはないが、優しくしっかりと包んでくれる温かな手。


この手も、大好き。


堪らなく嬉しくなって、ぎゅっと握り返した。




『なぁに?奈緒ちゃん』



すると柔らかな声がした。

左手を辿った先、温かい眼差しでこちらを見る、大好きな“お姉ちゃん”と今度は目があった。


『何か良いことでもあったの?』


ニッコリと笑いかけてくれるその顔に、奈緒もニッコリと笑い返す。


『うん!』
『何なに?私にも教えて?』


一緒に嬉しそうな顔をしてくれたお姉ちゃんに、奈緒は良いよと笑う。



あのね、と兄にも聞こえるように話す。

だって、とても嬉しくて、幸せなのだ。




『お姉ちゃんが、奈緒のお姉ちゃんになってくれて、嬉しいの』




そう、笑った。

兄もお姉ちゃんも、キョトンとした顔をして、その次には二人とも顔を見合わせて頬を染めた。

そんな二人を見て、奈緒はもっと嬉しくなる。



大好きな二人の左手には、キラリと光る指輪。

それが眩しくて、嬉しくて、幸せで、楽しくて、素敵で。



奈緒は二人の手を更にぎゅっと握りしめた。

喜びが、手からも伝わればいいなと思った。




『すっごく嬉しいの!』




それでもやっぱり伝え切れない気がして、もう一度奈緒は笑った。


ぎゅっ。


両手とも握り返された。
優しく、けれど力強く。
どちらも大きさは違うけれど、同じ温かさを持っていた。




『私も、奈緒ちゃんが妹になって、嬉しい!』




左手の先ではとびきりの笑顔が。
右手の先では愛しむ眼差しの微笑みが。





幸せだと、奈緒はまた笑った。














あの手とこの手の共有する温もり

(同じ温もりを分け合って、)
(そうして一つになる)













clap?












(2012/3/27)






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