「今日で何日めだっけ?」

「もう数えちゃいねーよ」




ガキ共が遊びに出ちまった昼下がりの万事屋。
残った俺とコイツはただ鳴らない電話を前にだらだらと取り留めない会話を繰り返す。



「仕事、来ないね」

「おー」



この会話だってもう何回もしてる。

確か昨日も一昨日もその前もその前の前の日もその前の前の前の日もした。


思わず「はぁぁぁ」なんて肺が空っぽになるくらいの息を吐き出した。




「ホントやだねェ。町も人もどんよりしちまって」

「そうだね」




眠ることのない町は一見すると変わりない。
それでもかぶき町がかぶき町たるいつもの騒がしさは今は息を潜めている。


まぁ分からなくもない。


それ程までの衝撃を恐らくすべての人間が受けたのだから。





「外の人間がしっかり日本を回していかなきゃなんねーってのによ」

「そうだね」





暗さってのはすぐ伝染していくもんだから。
哀しいとか辛いとか
そんな感情には敏感な生き物だから。





「こんな時こそ明るさを忘れちゃなるめェよ」

「そうだね」





逆に言えば明るさだって伝わるってことなわけだ。

笑う門には福来るとはよく言ったもんだ。





「銀ちゃん、銀ちゃん」

「んぁ?」

「ここ、ずっと寄ってるの気付いてた?」





そう言ってとんとんと自分の眉間を叩いてみせたこいつは、俺の真似なのか眉間をえらく寄せて、随分と不機嫌そうな辛気臭い顔をしてみせた。





「最近こんな顔ばっかりしてるんだよ」

「…!」







しかめっ面しているこいつに、思わずはっとした。







「ずーっとこんな感じじゃ疲れちゃうよ?」

「…」




そういえば、記憶を辿っても最近笑っていない気がする。
一体、俺はいつからその暗さに呑まれてたんだか。
そして知らず知らずきっとそれを振りまいていたんだろう。

こいつをも、呑まんとしていたのかもしれない。




「んー、いや、でも…こんな感じかも…」

「…っぶは!」




ぐるぐると記憶を手繰り寄せている間に、目の前のこいつは指で目を吊り上げはじめた。
そのあまりにも不細工な顔に吹き出してしまった。




「おまっ…ぶくくっ!その顔は酷すぎるだろ!」

「えー?銀ちゃんの真似してるだけだよ!それ即ち、銀ちゃんの顔と髪が酷すぎるってことだからね」

「オイ、銀さん一言も髪のこと言ってねーぞ」




すかさず突っ込んでやれば嬉しそうににししと笑って。




「全く失礼な奴だね、お前は。銀さんはいつだってニコニコと愛嬌たっぷりですぅー」




そう口の端を持ち上げて、ニヤリと笑ってやれば途端にこいつは弾かれたように笑顔を浮かべて。






「それでこそ銀ちゃん!」






そうあまりにも満面の笑顔で言うもんだから。
つい、俺も声を上げて笑っちまった。











笑って

(笑顔ってうつるんだよ)















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