テレビのない僕の部屋に文句を垂れつつ、目の前のコイツは自分の携帯をテレビ画面にし、机の上に僕にも見えるように置いた。
「…ひどいな」
「うん…」
小さな画面に映るのは、地震や津波の爪あとを残した痛々しい風景。
ただ流れる音声は重く、暗いアナウンサーの声。
「ほんとに、ひどい…」
反復するようにポツリと漏らしたその声も、ひどく暗く悲しげで。
ちらりと伺ったコイツは、画面を一心に見つめ、今にも泣きそうに顔を歪めていた。
「…何も出来ないことが、もどかしい」
そして歯を食いしばるように呟くその表情は痛々しくて。
まるで、自分を責めているようで。
「何も力になれないことが、悔しい」
吐き出すようなその声はテレビの音をも掻き消して。
――君は、優しいから。
「そんな事ないだろ」
「え?」
だけど、違うんだ。
大事な事はそうじゃないんだ。
「出来てるだろ」
「何を?」
何も出来ないなんて事はないんだ。
「想ってる。
たくさんの人間のことを、君は想ってる」
それは祈りかもしれない。願いかもしれない。
けれど儚くとも確かなものだ。
「でも、想うだけで何も出来ないよ」
「想うことから始まるんだ」
そんな風にくよくよしてる場合じゃないだろ。
お節介で、無鉄砲で、向こう見ずで、一生懸命な君は。
「始まる?」
「そうだ。そう想うから、出来る事を探す。探すから、見つける。見つけたから、行動する。簡単な事だ。何だって始まりはそこからだ」
「想う、気持ち…」
そのささやかな想いは、大きな力となっていく。
そして大きな力はやがて集まり、希望となる。
それが人が人たる証しだと、君が教えてくれた事。
「それに…」
「?」
言葉を切れば、続きを待つように首をかしげる彼女の姿。
その姿に、何だかいつかの記憶を思いだし、そっと心に灯火が燈った。
「想い続ける限り、その人達は一人じゃない」
そう。
それはとても強い力を持つことを、僕は知っている。
「…うん。そうだね!」
そして、想いは人を救うことも、知っている。
想う
(想い泣いている君へ)
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