*『追憶の空へ』の続き。
1巻 文庫本P171、単行本P171の遺体発見後から晴香が映研部屋を訪れるまでの空白行間のお話















その日の夕方に八雲が帰ってきた。




「早かったじゃないか。彼女とのドライブは楽しかったかい?」

「しつこい!」




また一喝されてしまった。




「何だ。車を貸したんだから話しくらい聞かせてくれてもいいだろうに」

「例の如くトラブルに巻き込まれた、それだけだ」



心底疲れたという風に首を振っているが、そんな様子さえも可笑しくなってくる。



「それを承知した上で、ドライブに出掛けたんだろう?」

「…ビジネスだ」

「何だ。お前彼女からお金をとったのか?」

「別にどうしようと叔父さんには関係ないだろ。…何、ニヤニヤしてるんだ」

「全く、お前は素直じゃないね」




お金なんてあの子から取る気がないくせに。
素直には助けれない、困ったやつだ。



それはそうと。




「彼女の名前は?」

「何だ、あれだけ要らない会話をしておきながら、名前も聞いてなかったのか?」

「お前が急かすから聞きそびれてしまったんだよ」

「それは残念だったな。またチャンスが有れば逃さないようにすることだ」

「ほう!じゃあまた近いうちに連れて来てくれるのか!」

「…なんでそうなるんだ」




がっくりとうな垂れ深いため息のあと、八雲はがりがりと頭を掻き回す。


ここまで来ればもう一押しだ。




「何だ?そう意味じゃないのか?」

「…」

「そうだな、次の土曜なんか…」

「小沢だ」




してやったり。

ぽつりとこぼした言葉に笑いそうになるが、ここで笑ってはいけないことは承知している。




「下の名前は?知らないとは言わまい?」

「小沢…晴香だ」

「晴れに香るで、晴香ちゃんかい?」

「ああ」

「良い名前だね」





晴れやかに香るで、晴香。


ふと思い返された
あの雲を払ってしまうような晴々とした笑顔。
ぴったりな名前だ。




「八雲。何だか名前だけでもお前との縁を感じるね」

「…よくある名前だろ」




面倒臭そうに逸らされた顔。
表情は伺えないが、声音は柔らかい。







「八雲、ありがとう」

「何がだ?」



訝しげに戻ってきた視線。
なんだか先日のやり取りと同じで笑ってしまった。



「彼女と会わせてくれてだよ」

「別に会わせようと思ったわけじゃない」

「それなら、大学で待たせれば良かっただろう?」

「迎えに行くのが面倒だろ」

「じゃあ、わざわざ門の所で待たせず、そこの坂下で待たせれば良かったじゃないか」

「それは…」




返す言葉が見つからなかったのか、キリがないと思ったのか。
不機嫌そうな顔で黙ってしまった。



おっと。
いじめすぎてしまったか。
あまりにも素直に反応するものだから、つい、つついてしまう。




「まあ、ともかくだ。また晴香ちゃんを連れてきなさい」

「なぜ?」

「なぜって、今日はちゃんともてなせなかったからね」

「だから?」

「次はきちんともてなしたいじゃないか」




じろりとこちらを見遣った後、本日何回目かのため息。

そして膝を立ててゆっくりと立ち上がる。




「何だ。もう行くのか?」

「ああ」




居間を出ようとする背中に、いってらっしゃいと声をかけようとすると




「…また、機会があればな」




そんな素っ気ない呟きが聞こえた。

そしてその背中は廊下を進んでしまい、すぐに玄関の引き戸の音がした。















「全く、本当に素直じゃないな」




思わずこぼれた笑いは、どうにも溢れ出て治まりそうになかった。














晴れやかに。





















clap?




‐‐‐‐‐‐

こうして、斉藤家には常に羊羹が用意されるようになったのだ!

これは2巻の172Pの「冷蔵庫には羊羹も」からも派生したものです。


絶対ね、鍵返しにいったら一心さん興味津々で
八雲にきくだろうなーって!
もうにっこにこしながらきくだろうなーって思って始まったお話。

あとは、1巻の214Pの八雲の名前の由来より。
八雲の名前の話を呼んだあと、晴香という名前に
すげーよ先生!となった記憶が・・・。

名前だけでもご飯もりもりいけるぜ八晴!
(2010/2/7)






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