*『追憶の空へ』内の晴香に「きれい」と言われた日の回想続き。














「ありがとう」

「何がだ?」



突然の言葉に八雲は首を捻っていた。



「また会わしてくれるんだろ?」

「誰もそんなこと言っていない!」

「いいじゃないか。是非私も会ってみたい。」

「…もうすぐ、事件が終われば彼女だっていなくなるさ。」



そう、自嘲気味に呟いた言葉。


信じる人に裏切られることを何よりも恐れてきた八雲は心を守るために周りに壁を張り巡らせてきた。

だが、その壁をいとも簡単に突き破ってきた彼女に
それが揺れている。



「八雲。」

「けど、それでいいんだ。」




――たとえいたとしても、俺が不幸にしてしまう。



脳裏に蘇る全てを否定していたあの日。
まだ、本気でそんなことを思っているのだろうか。




「そんな人が確かにいた。
 それだけで、いいんだ。」




いや、違う。
きっとようやく受け入れたのだ。
それは自分自身であり、まだ朧げながらも過去をも。

その上で
もう充分だと、諦めてしまっている。
そうしてまた自分を守ろうとしているのだ。



そうではない。
まだだ、八雲。




「八雲。人と人とは不思議な結び付きがあるものだ。
 そして一度結び付いたものは消えはしない。」

「・・・」

「だから、きっと。
お前のその左目をきれいだと言った彼女とお前も、」

「・・・」





「見えないもので繋がり続ける。」








八雲、必ずだ。
時間がかかろうとも
その幾重にもなる分厚い雲は取り払える。








「…っは。」

「ん?」

「…あんな」

「何だ?」

「あんなトラブルメーカーと縁が続くとしたら、ぼくは本当にツイてない。」






だから、八雲。







「いやいや、可愛い子なんだろう?羨ましいぞ。」

「だから、」

「じゃあお前の主観ではどうなんだ?」









幸せになっていいんだよ。















その空は、

(過去にさえ、届く)


















‐‐‐‐‐‐
晴香に「きれい」と言われた日の一心さんとの会話の続き。

8巻まででみると、八雲は本当に強くなったなと思うけど、まだこの段階ではきっとそう変われない。
けれど、変わった。動かなかったものが動いた。
その大きさではなく、その事実が大切。

斉藤親子が大好きだ!







(2010/2/7)






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