小説 | ナノ
「あの、」
「何だ」
「何だって言うか、その、」
そこまで言いかけて、言い淀む。
だって、言いにくいじゃないか。
何でそんなに見てくるんですか、なんて。
「いえ、大したことではないんですが、えっと…」
「……」
ほんとどうしてこんな状況になったのか。
つい何分か前に、やっと一息つけると休憩を取っていれば、急に兵長がやってきて。
そして何故か目の前に座ったかと思えば、じっと私を凝視し出したのだ。
正直、居心地が悪くてどうにも落ち着かない。
見られているというか睨まれているというか観察されているというか。
何か知らないうちにやらかしてしまったのだろうかと考えれば、更には生きた心地すらしなくて。
あぁぁ、叱るならさっさと叱ってほしい。
思わず頭を抱えた。
「…オイ、腹でも壊してんのか?」
すると、がくりと項垂れていれば次に聞こえたそれ。
相変わらず淡々とした低音だが、そこにはどこか心配そうな色が滲んでいて。
予想もしていなかった兵長の言葉(というか、優しさ、なのか、)に驚いて勢いよく顔を上げた。
「い、いえ!大丈夫です!元気です!」
「…そうか」
顔を上げれば、兵長は変わらずじっと探るように見てくるものだから、弾かれたように私は答えた。
すると兵長は、少し、ほんの少しだけど、安心したような顔をした、気がした。
「…兵長?」
「何もないなら、いい。邪魔したな」
そして、用は済んだと言わんばかりに、今度は徐に席から立ち上がった。
え、え?
「あの…?」
思わず、立ち去ろうとする兵長を呼び止めれば、また真っ直ぐな視線が戻ってきた。
そして。
「最近てめぇが挙動不審すぎたんで、見に来ただけだ」
「え?」
「…あんま、心配かけんじゃねぇ」
ぼそりとそう呟いて。
今度こそカツカツと足音を響かせながら、歩いて行ってしまった。
残された私は、言葉も出なくて。
多分、きっと、今とんでもない間抜け面してるんだろうな。
だって、忙しい時間を縫って、兵長が様子を見に来てくれただなんて。
私の様子に、気付いてくれていたなんて。
じわり、じわりと、嬉しさが込み上げた。
「それにしても挙動不審、て…」
そう映ってたかぁー
堪らず小さく笑ってしまった。
だって仕方がないじゃないですか、兵長。
あなたに恋してるんだもの
clap?
(2012/5/23)
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