小説 | ナノ


「…今のままじゃ、ダメなんだ」




その両手に、切り落とした巨人の腕を抱えて。
血に塗れた顔で。


ハンジはそう言った。




彼女の足元には、彼女の仲間達だったものが。
その赤の上に、ハンジはただ真っ直ぐと整然と立っていた。



「ハンジ」
「憎しみだけで、」



肉片となった仲間達と、醜く蒸発し出した腕を、ただ色のない瞳で見比べて。



「憎しみだけで、進むには、限界なんだよ」



そう言葉を切った彼女を見つめた。



「何も見えないんだ」
「…うん」



何度も何度も、
仲間を喰われた。
その度に、心底憎んだ。

けれど、憎しみの業火に身を焼かれようとも、また同じ事を繰り返すだけで。

憎んで憎んで、憎んで。
そうした先にあるものは、いつだって変わらなかった。





「私は、既存の見方とは違った視点で見てみたい」





ハンジがぽつりと呟いた。
その言葉は、凜と澄んで。


そっと彼女の瞳を見つめれば、そこには確かな力が宿っていた。



ああ、彼女は強い。





「アイリ、私は巨人を知りたい。この世界を理解したい」





ぼろぼろと、ハンジの腕から肉塊がこぼれ落ちた。




「変わり者って言われるよ」
「ははっ、良いね」





仲間の敵を、憎むべき巨人を興味深げに眺め、そして。





「変わり者がいなきゃ、何も変えられない」






その瞳の奥底に、憎しみも恐れも悲しみも隠して、殺して、彼女はただ笑った。








人知れずその身を焦がして

世界の為に、彼女は、










clap?







(2012/6/5)