小説 | ナノ


友達以上恋人未満。
それはぬるま湯に浸かるような安定感で酷く心地好かった。共に過ごす時間は他の誰よりも長いものだったし、きっと深い所まで誰よりも理解しあってる。恐らく互いしか知らない一面も、互いに多く持っているのだろう。
けれど肩が触れるほど隣あう事があっても、手を握ったことはない。息を詰めるほど見つめあっても、その唇が触れあったことはない。

そこにあるものは確かに恋情だったけど。

でもそれで良かったし、これからもそれで良いと思っていた。死と隣り合わせに生きる中で、互いの深遠まで踏み込むことは躊躇われた。恐ろしかった。だから互いにとって、これが最も良い距離なのだと、私はそう思っていた。


そしてそう考えているのは、リヴァイも同じだと思っていた。








「リヴァイ、どういうつもりよ」



動揺を隠すように出した声は思ったよりも低く、静かな声だった。



「見ての通りだ」



それに対して返ってきたリヴァイの声も、いつもより低くく落ち着いたもので。
その言葉を受け、私を上から眺めるリヴァイの顔をキッと睨みつけた。


何が、見ての通りだ。


先日の壁外調査でヘマをして巨人に殺されかけて。何とか一命を取り留めて意識が戻りぼぅっとしていた矢先、突然もの凄い仏頂面でやって来たリヴァイに押し倒されたのだ。

ぐっと覆いかぶさるように上にいるリヴァイを払おうと両手に力を込めるも、その両手はリヴァイに縫い付けられ動かすこともできない。何より、抵抗するだけの体力がないのだが。



「…傷口開いたらどうしてくれんのよ」



そう恨めしげに言えば、知るか、というとんでもない言葉が降ってきた。
結局押さえる力は緩まず、抗おうと力めば身体中が悲鳴を上げるもんだから、私は力無くベッドに沈むしかなかった。


リヴァイは尚も真っ直ぐとこちらを見ていて。その瞳を、その奥底を、これ以上見てはいけないと私は目を伏せた。





「…死んだと、思った」





ぽつり、とそんな私を見下ろしながら降ってきたリヴァイの言葉。再びじっとその瞳を覗き込めば、ただ真っ直ぐと、私を捉えていた。

その奥底は、揺れていた。



「…私も、死ぬと思った」



巨人に握られたあの瞬間が鮮明に蘇る。自分の内側が軋む音、巨人の吐息、目の前にちらついた死の匂い。

そして、あの瞬間浮かんだ、酷く悲しげなリヴァイの顔。


だからこそ。




「…どいてリヴァイ。冗談もいい加減にして」




これ以上はダメだ。
踏み込んではダメだ。
わざわざ互いが傷つく道を選ばなくたって良い。
わざわざいつか来る悲しみを、恐怖を、背負う必要も背負わせる必要もない。



私はこの人を、苦しめたくない。



なのに。






「冗談に見えんのか」






そう眉をひそめ、切なげに細められた瞳はただただ真剣で。その声は切実で苦しそうで。



「…冗談に、してよ」
「冗談じゃねぇっつってんだろ」
「分かってよ」
「分かってる」



だめだよ、そんな目をするなんて。そんな声を出すなんて。逃げられない躱せない。

そんな顔、しないでよ。



「…きっと後悔する」
「後悔ならした」



ぐっと私の手首を握る力が強まって。その痛みからリヴァイの想いが伝わってくるようで。




「てめぇを失ったと思った瞬間、後悔した」




流れこんできたその言葉に、気付けば私は涙を流していた。



「どちらにしたって後悔すんなら、今この瞬間、後悔しない方を俺は選ぶ」
「っ…、」
「逃げんな、アイリ」
「リヴァ、イ」
「てめぇも、今後悔しない方を選べ」



迷いのない言葉が容易く私の心に割り込んで。




「俺を、選べ」



静かに降りてきたリヴァイの影に、私は静かに目を閉じた。







もう戻れない

(とっくに手遅れだったというのに)







clap?







アニメリヴァイ、初登場記念!

(2013/4/30)