小説 | ナノ
“アイリが意識不明なんだ”
そう唐突に突き付けられた言葉にすぐ浮かんだのは、まさか、という根拠のない否定だった。そんな訳があるか、と。それはその実力を誰よりも知っていると言う事と、何よりもいつだって、仲間のものなのか殺した巨人のものなのか分からない血に塗れながらも、必ず、気丈な面持ちで前を見据え帰還を果たしてきた姿を幾度となく目にしてきたからだ。ただ、今回の撤退の最中、その姿を見かけることはなかったが。
何の冗談だ、クソメガネ。
それでもやっぱりこいつらの悪ふざけに違いないと舌打ちを零してそう睨みつけるも、目の前のハンジはただただその情けない面を変えることなく、ホントなんだよ、リヴァイ、と呟いた。そして、行こう、と。
その瞳も声も何もかもが真っ直ぐで。ただ、分かった、と返す事しかできなかった。
どうせ何かの間違いだ。
そう頭の片隅で考えたそれは、まるで自分に言い聞かせるようだった。
訪れた病室には、アルコールと何処か血生臭い匂いを纏ったアイリが眠っていた。眠っている、と言うよりも、死んでいるようだった。全身至る所に巻かれた包帯には血が滲み、顔は打撲と傷で痛々しいものだった。それは、死に顔のようだった。言葉が出ず、その姿をまじまじと見るが、やはりアイリに違いはなく、辛うじて上下するその胸に少し救われた。
「今夜が峠だろうって」
気を遣ってなのか入り口で立ったままのハンジは、静かにそう告げた。その声音には、受けとめたような、覚悟を決めたような強さが含まれていた。調査兵団にいる以上、いや、この世界で生きる以上必要なものだ。
「…そうか」
自分だって分かっていたはずだ。死と隣り合わせの中で、命をかけると言う意味を。たくさん目にしてきたはずだ。志半ばで死んでいった仲間や部下達を。俺も、アイリも、覚悟していたはずだ。
いずれ来る決別を。
なのに、どうして。
「…アイリ」
今、こんなにも恐れているんだろう。
忘却の空へ
ただ、その手を握ることしか出来なかった
clap?
連載しようと思ってたやつ(^p^)
(2013/4/23)
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