小説 | ナノ


しん、と周りの空気は静まり返り、視線と言う視線が自分達に注がれているのを感じられた。
誰もが息を飲んで様子を見守っている、そんな感じ。



「…」
「…」



けれど私は正直それ所じゃなくて。
驚きに見開いた目は未だ開きっぱなしでなんか乾いてきたし、そんな私の正面にいるリヴァイの目も驚きにずっと見開かれたまま私を凝視しているし、そんな感じに互いに逸らせないでいるもんだから気まずささえ感じる。



「…」
「…」



ようやく瞬きを一つして、まるで金縛りが解けたかのようにそれはもうゆっくりと、状況を整理しようと視線を下に向けた。ああ、うん。感覚で見ずとも分かっちゃいたが。それはもうガッシリとしっかりとすっぽりと。

私の左胸をリヴァイが掴んでいた。



一体何がどうしてこうなった。



「…」
「…」



蹴つまずいた事は覚えている。そしてその先にリヴァイがいた事も。
衝撃を覚悟していたのに代わりに感じたのは、胸を掴まれる確かな感覚で。それに驚いて目を見開いた先にいたのは、同じく目を見開いたリヴァイで。



「…」
「…」



うん、あれかな、こけそうになった私を助けようとしてくれたんだろうか。いや、リヴァイなら止める所か躱そうと、私を手で払いのけようとした可能性もあるな。なんてぼんやり考えながら、むんずと私の左胸を掴んでいるその手を凝視する。うん、どう見てもやっぱりリヴァイの右手だ。もう一回瞬きをしてみたけれど、やっぱりリヴァイの右手だ。

っていうかこの人いつまで掴んでんの。



「…あの、」
「…」



リヴァイ、と声を押し出そうとした所で、ようやく、すっとリヴァイの手が離れていった。無言で。
そして離れていったその手をそのまま視線で追えば、あろう事か、私の胸を掴んだ右手をごしごしとハンカチで拭き出した。

は?



「…」
「…」



思わず呆気に取られて。
ただ言葉も出ずにその行為を見ていれば、リヴァイは拭き終えたハンカチを要らないとばかりに屑籠に投げ入れ、そして何故か最後にまた右の掌を一瞥した後、そのままくるりと背中を向けた。ただただぽかんとその背を眺めていれば、カツカツと足音を響かせながら歩きだし、そして、なんと。

そのまま部屋を出ていってしまった。


え?



「…」


残された私はバタンと閉じられた扉を見つめたまま立ち尽くし、時間が再び動き出したかのようにざわめき出した周囲から、痛いほどの視線を一身に受けて。
整理して。
思い返して。







「ぎゃああああ!!」







未だ左胸に残る感触に、オーバーヒートした。










純情クライシス!


(あれ、兵長どうしたんですか?そんな所で手見つめて座り込んで…)
(…何でもねぇ)
(え、顔真っ赤ですけど大丈、痛っ!?)











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実は純情でヘタレな兵長もいいと思うんだけどそんな兵長ダメですか?\(^q^)/




clap?







(2012/6/25)