小説 | ナノ


ハァッ、ハァッ、


息が切れ切れになる。
浅く断続的に呼吸をしながら、ドクドクと脈打つ心臓を無視した。
五体満足でいること。
それだけで充分な奇跡だと思えた。けれど、あの鋭利な歯に触れた脇腹は切り裂かれ、そこからは血が止まらず流れ出て、私の意識すら奪おうとしていた。片手で強く傷口を押さえ、何とかこれまた奇跡的に無事だった立体機動装置を使い前進してはいるものの、もはや限界に近かった。



馬を失った。
仲間を失った。


撤退の合図を見たのは、もう1時間以上前だった。




本部が待機していた場所へ、せめて。




そう歯を食いしばり進むも、分かっていた。生き残った全員、すでに撤退した後だろうと。
戻らない班は、生存は絶望的と見なされる。
待ってなど、いられない。その分、残った者たちまで危険に晒されてしまう。


だから、きっと私は、外の世界に取り残された。



そう、思っていた。

なのに、





「な、んで…」





絞り出した声は震えていた。

どうにかたどり着いたその場所には、もう会うことも叶わないのだと思っていた人が、ただ一人佇んでいた。



「リヴァイ兵長、」



驚きにただただ目の前の相手を凝視していれば、兵長は眉間のシワを更に濃くして、


「…おせぇ」


そう不機嫌な声で言った。



何で、どうして、


そんな言葉しか出てこなかった。




「ここに戻ってくると思った」
「戻ってくる、保証もないのに…」
「現に、今てめぇは来たじゃねぇか」




しれっと言い放つ兵長はいつもの兵長で。



「何、してるんですか。人類の希望のあなたが…」



言葉と裏腹に、ぼろぼろと涙が零れた。



誰も私を待ってなどいないと思った。
一人孤独に終えるのだと思った。

兵長の姿を見ることなど、もうないのだと思っていた。







「…良かった」



そんな言葉が耳に入ると同時に、兵長は私の頭を強く抱き抱えた。


「兵長、」
「世話焼かせんじゃねぇ、愚図が」


伝わる体温と、強く強く抱きしめられる感覚に、
私は生きているのだとようやく実感して。

ごめんなさい、と。
兵長まで危険に晒させてしまったと、何度も何度も謝れば、まだ急げば本隊に間に合う、くだらねぇ心配する前にてめぇの心配をしてろ、と、兵長は依然私を抱きしめたまま言った。



「じゃあ、早く合流しないとですね」
「あぁ」



それでも兵長は私を抱きしめたまま動こうとはしなくて。
兵長、とまた声をかけようとすれば、少し黙ってろ、とまで言われて。



私はただただその温もりを感じながら、あぁやっぱりホントに兵長だ、とまた泣いた。










生きてる。
(そう、信じてた)











clap?













(2012/6/12)