小説 | ナノ


「もしも、」


絞り出した声は、思ったよりも掠れて小さかった。

トントンとリズムを刻む包丁の音で届いていないかも、なんて思ったが、どうやらちゃんと聞こえていたらしい。


後ろから、何だ、とリヴァイの声がした。



「もし、右腕を失ったら、どうする?」



トントントン

軽快な音が、響く。




「…まだ左腕がある」
「じゃあ、左腕も失くなったら?」
「脚がある」
「両脚が失くなったら?」
「頭がある」



トン、

包丁を置いて、じゃあ、と言葉を切った。




「…あなたが、失くなってしまったら?」
「俺の意志は、残る」




そう迷いなく言い切った言葉を背中で聞いた。

私は細かく刻んだ玉葱を見つめたまま。
そしてもう十分刻まれたそれを、また刻み出した。




「…そう」
「あぁ」





トントン、
トントン






分かっていた。
私に、止められるはずがない、と。
リヴァイが、止まれるはずがない、と。



分かっていた。





だけど、

だけど、











あなたを失った私には
一体何が残るのだろう


(きっと何も残らない)







「…ただ、お前だけは失くせない」


そう、ぽつりとリヴァイが呟いた。
けれど私は聞こえないフリをした。

ならばあなたが失くならないで、と、言えるはずもなく。






clap?







(2012/6/19)