小説 | ナノ
あ、ほら、また。
「…アイリ、今度の名前は何がいいかなァ!?」
唐突に、ようやく口を開いたと思ったら、ハンジは発狂しそうな声音を上げた。フーフーと鼻息を荒くして振り返って。その顔はまるで興奮しきったような、歓喜に満ちたような、そんな顔をしていて。
「んーそうだねぇ〜」
私は、当たり障りのない気のない返事を返す。
だって、どうせハンジは聞いてない。
そんなハンジの様子に周りの皆は、いつものやつが始まった、なんて呆れて。やっぱり、変だよ、なんてぼやいて。
けれど、誰も分かっちゃいない。
最後まで暴れる巨人を、ようやく取り押さえたその瞬間。それはほんの刹那。彼女が感情を無くした瞳を浮かべていたことを。
「うあぁぁあ、ま、まずは、名前を決めてあげなくちゃね…あなたも素敵な名前が欲しいよね!」
楽しげに、まるで愛しげに話かけるソレに、時折ちりりと滲み出る憎しみが隠れていることも。
「名前つけたら、とりあえずまた前回の検証から…」
だって、コイツを生け捕るまでに、彼女の部下も仲間も、たくさん死んだ。
既存の見方とは違う視点で見てみたいんだ。
そう、仲間の死体を見つめながら言ったハンジの姿は5年たった今も鮮明に覚えている。
あの日から、ハンジは巨人を憎しみではなく好奇の対象として、理解しようと、歩み寄ろうとすらして。
そんな彼女を、まるで異端者を見るような目で周りは変人と呼んだ。
それもそうだと、思う。
人類は憎しみと畏怖の感情しか、持っていないから。強く強く根付いたそれを、消し去る事も、上書きする事も出来ないのだ。
けれど、ハンジは。
「エリー!エリーはどうかなァ!?」
「あー、女の子なのね、こいつ」
「どっからどうみても女の子だよ!」
本気、なのだ。
湧き出るものに蓋をして、憎悪と表裏一体の世界で、一人、変えようとしてるのだ。
そのために、身を焦がしながらも、彼女自身が変わってみせたのだ。
「…確かに、可愛い顔してるかもね」
「さすがアイリ!そうなんだよ、この目の感じが…」
ならば、私は。
ただひたむきに、例え業火の中であろうとも、先陣を切って突き進むこの友の、
「エリー、良い名前じゃん」
味方でありたい。
表裏一体
の世界で
私は彼女と同じものを見たい
clap?
(2012/6/7)
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