魔法の杖の店


精霊の住む泉にいるドラゴンの牙やら角やらを材料にした杖は、何かと使い勝手が良いらしい。
らしい、という言葉は、酒臭くて胡散臭い近所の商人から聞いた情報だからくっつけておいた。

「実際はどうなんですかね、店長」
「え?…うーん、そうだなあ…確かに人によっちゃ使いやすいかもしれないな。折れにくいし。…でも店長は木の方が好みだね。断然。やっぱりあの、なんつーか…木の温もり?みたいなアレがあって良いよね。触り心地とかまじで素晴らしいよね。毎日抱いて寝たいよね。魔法使いはみんな、カビるとかキノコ生えるとか言うけど、生命力に満ち溢れてる証だから。いいじゃないかキノコ美味しいし。…それに状態を悪くするのは大半が持ち主の扱いが悪いからだからな。杖のせいにされちゃ困るよ、まったく。…あ、あと、本当に質のいい木の杖には生えないから。聖なる力が宿っているからね。そこのところを勘違いしないように十分注意してくれたまえよ春也くん。分かったかい?」

「…あ、はい…別に勘違いとかしてた訳じゃ無いんですけどね…はは」

店長に尋ねてみると、くっそ長い返事が返ってきた。この杖オタクが。
…まあ途中からほぼ聞いていなかったけれども。

「そうかい?ならいいんだ。…あ、そうだ春也くん。その辺の魔具を片付けておいて貰えるかな。今日は掃除したい気分だから」
「気分て…まあ店長にしては良い心がけですけど。オレだけに任せないで下さいね」

いつも客が来るというのに全く部屋を掃除しようとしない店長が、自らこんなことを言い出すなんて珍しい。今日は豚でも降るんじゃないだろうか。そしたら夕食は生姜焼きにしよう。うふふ。

「当たり前じゃないか!春也くんは店の為に色々働いてくれているからね。偶には店長も頑張らないと」
「店長…」

なんということだ…クズの、いやクズ人間の店長が、オレに気を使っている。
これは豚どころでは済まされないかもしれない。

(そしてちょっと感動した)

「とりあえずこっちの棚は任せてくれたまえ。見違えるほど美しくしてみせよう」
「は…はい!!じゃあオレ、これ片付けたら窓拭きまくります!!」

オレは歓喜の涙を服の袖で拭うと、魔具(大方錬金釜とかそのあたりだろう)を抱えて二階の倉庫へ走った。
流石店長。やっぱりあの人はやればできる人間だったんだ。今までずっと信じていて良かった。

それから雑巾やらなにやらを持って階段を駆け下りると、杖を造る時に似た真剣な眼差しで棚を磨く店長ー…
…ではなく、棚と壁の間に挟まる店長の姿があった。

「…ごめん春也くん…動けない…」
「いや、一体何がどうなったらそんなことになるんですか!?さっきまで店長が挟まるだけの隙間無かったですよね!?」
「それが…よく分からないんだ…っ、気が、ついたらっ、挟まってて、それでっ…」
「どんな状況ですかそれ…って、なに泣いてんですか!!」
「はっ、春也、くっ、…う、」
「あああほら泣かない!!ほおらっ怖くないですよおぉふんぬぐぉぉぉ!」

いい歳した大人がめそめそしてんじゃねえぞゴルァ等と考えながら、店長が色々買い込みやがったせいで無駄に重い棚をずりずり動かす。

その後、救出された店長は絶対棚掃除するんだと言い張ったが、椅子にガムテープで拘束しておいた。
余計な用を増やされるよりは、こうやって大人しくしていてもらった方がマシだ。

…そして店の掃除が全てオレの仕事になったのは、確かこの日からだったと思う。



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