八束と呼人


「お前ってさ」

俺は振り向いた。

「モテないよね」

後ろでは、八束があんぱんを食いながら携帯ゲームに没頭していた。

「…だからなんだ」
「ん〜?別に?」
「何か言いたいことがあるんだろう。言え」

俺はこういう態度が好きではない。
だから普通にしていても凶悪(らしい)な目を意識して細め、きっと睨みつけてみた。

…が、液晶画面から目を離した八束はにんまり笑っていて。

「…とうっ!」
「!?」

次の瞬間、ゲーム機もあんぱんも放り出して思い切り抱きついてきた。いくらこいつが俺より小柄で細身だと言っても、子供でも女でもないのだから、やはりでかくて重い。あと暑苦しいファーがうざい。なんで暖房きいた部屋の中でコート着てんだこいつは。馬鹿か。

「…なんなんだ」
「いい加減寂しいだろ呼人クン?」
「俺は人が好きじゃない」
「強がっちゃって…夜の帝王であるオレ様が、いい女紹介してあげよっか?」
「いらん、どけ」

俺に話を聞く気がないと分かると、八束はつまらなそうに離れた。

「先輩におっさんに禄介…とオレで4人…なんだよ、これじゃ人数足りないじゃないか」
「………」

成る程。
合コンの人数合わせがしたかっただけか…とてつもなくこいつらしいが、こいつらしさが溢れすぎて心底呆れる。
本当になんなんだろうか。こいつに目をつけられた女性が可哀想でー…

「…なに、呼人クン…妬いた?」

………………。

いや、
いや…何故そうなる。
今の話の流れの何が…一体何がそのような要素を孕んでいたというのだ。
馬鹿か。

…なんだそのにやにや顔は。おい。
ふざけるな。

「…っくは、呼人クンすごい顔赤いよ」
「…!?っそ、んなはずは」
「ほら」
「!」

ぴた、と、八束が手の甲を俺の右頬に押し付けてきた。
冷たい。

…いや、俺の頬が熱くなっているらしかった。

「呼人クンさあ、その性格で顔に出やすいって…駄目でしょ」
「黙れ」

俺は八束の手を緩めに払った(あまりムキになっていると思われたくなかったからだ)。
一応言っておくが、俺はこいつ如きに妬いたりしない。し、恋愛感情もない。そしてこういった内容の話を八束にするとツンデレだと言われるが、残念ながらこいつに抱く感情は呆れと殺意のみである。
八束は俺が照れて赤くなったと考えたようだが、ただ怒りが顔に出ただけだ。

「八束」
「ま、そんな気にするなって!どこ行ったって、オレ様の一番は呼人クンだからさ」

「な、」

再び顔が熱くなるのを感じた。

「………呼人クン、顔」
「、…せいっ!」
「ああぁあぁぁオレの携帯がぁぁぁぁっ!!」

今度は何故か非常にいたたまれなくなったため、俺は充電中だった八束の真っ黄色な携帯を、本来とは逆の方向に折ったのだった。

「ツンが暴力的すぎだろ!!」
「知るか!!」



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