レイニーブルー



しとしと





ぱら ぱら ぱら



パチパチ

ぴちょんぴちょん


さら、さらさら




ざああざぁあざあ

ざざ



ざあぁ、ああ



「…はあ」

喫茶店のカウンターでくつろいでいた私は、コーヒーを一口飲んで大きな溜め息をついた
ガラスごしの灰色に濡れた世界は数分前とは全くの別物にみえる

まさかこんな天気になるとは思わなかった、傘など持ち合わせているはずもない

勿論合羽も

きっとにわか雨だろう
止むまでここで待っていよう

私は一気に憂鬱な気分になって頬杖をつき、面白味のない、しかし見慣れた景色を眺めることにした

ああ、雨雲は何故こんな所に来てしまったのだろう
他にもっと水を必要とする場所があるはずだ

地球を貫く井戸を掘ってみたらどうだろうか
こっちで降った雨が、そこを通って地球の裏側に届くのだ

雨を集めるなら大きな掃除機が必要になる
それとも街中を覆う傾いた屋根がいいか
一番低くなっている部分にホースを繋げて、井戸に送りこむ

しかしずっと屋根があるのも困りものだ
偶には雨も降らないと地面が干からびてしまうし、何よりどこまででも続いていそうな空の開放感が失われてしまうのは非常に惜しい

よし、屋根は折り畳み式か移動式にしよう
これなら使いたい時だけ広げられて便利だ

そうだ

どうせなら雨だけでなく紫外線も防げるといい
良く解らないが、とにかくそんな機能のある素材を使えばー…


「災難だったね」

「あ」

後ろから聞き慣れた声がした

よく磨かれているせいか、その向こうが暗いせいか
目の前のガラスにくっきりと声の主が映りこんでいる

片手にコンビニのビニール傘を持った
少しくせのある髪を今は湿気でぶわっぶわに膨張させているその人は、

元彼氏



今彼氏

「なんでここにいるって解ったの?まだ電話もしてないのに」

「そこのコンビニで傘買ったら、見えた」

「髪すごいよ」

「うん…丸刈りにでもしようかな」

「やめなさい」

嘘だよ、と楽しげに微笑むのを見て、急にやっぱり私はこの人が好きなんだなあと思った

この笑顔は、数年前よりずっと「生きてる」っぽい

「…ねえ、今からどこ行くの?」

「駅。帰るところだったのよ」

「そっか、じゃあ一緒に行かない?」

「行く行く」

彼は湿気は嫌いだが雨は好きだ

「今日はね、降らなくていいところで降った雨を、水を必要としている世界のどこかに届ける方法を考えていたの」

私が、こうやっておかしな話を考えるから

「へえ、どうやって?飛行機にタンク積んだりとか?」

「…その発想はなかった」




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