黄色いリボンの女の子




「なかないで」

お金も食べるものもなくて、流行り病で衰弱した母を置いてはるばる城下町までやってきた

賑わう市場で熟れきった林檎を見つけ、店の主人がそっぽを向いている時に素早く手を伸ばしたが
後ろに立っていた下っ端兵士にぼこぼこに殴られた

転がるように走って逃げて、ゴミ捨て場に隠れる
息を潜めて待てば、人の気配は消えた

「っう、」

だがそれだけだ

相変わらず腹は減ったままだし、殴りつけられた身体が痛い
何も変わらない

自分は母を助けるためにこんなところまできたのに
大量の廃棄物に埋もれながら泣きじゃくっていた時、どこからか声がした

「なかないで」

栗色の長い髪に黄色いリボンをつけた、小さな女の子だった

彼女は僕の頭を優しく撫でて、持っていた一輪の真っ白な花をくれた

「きれいでしょう?わたしね、おおきくなったらお花やさんになるの!」

それからこれ!と呟きながら、ポケットに手を突っ込む

「はい、あげる」

開いた手のひらに乗っていたのは端のかけたビスケット

また泣きそうになってしまったけれど、今度は必死に耐えた

なかないでって言われたんだ、この子の前では、もう絶対、なかない。

だから僕が泣いたのは、彼女がスキップをしながらどこかへ行ってしまった後だった



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