今夜は帰りません



※ウザさを強調するために一部絵文字を使っています。不快に思ったり読めなかったりした場合は連絡してください。








クリスマスイブの夕方。

有本は頭や肩にうすく積もった雪を払ってから店内に足を踏み入れた。
頭上の看板には『まじで超うまいすごいケーキのお店』とある。

「いらっしゃいま…せ…」

髪を乱暴にかき回して細かい雪を落としながらカウンター奥の女性を鋭く睨みつける。本人はただ見たつもりであるが。
輝く笑顔で挨拶をした女性は口元を軽くひきつらせ、最悪の展開すら想像して気づかれないように身構えた。

有本はそんな店員の態度を無視してガラスケースの中に視線を向ける。

「これをくれ」

彼が指さしたのは切り分けられたチョコレートケーキだった。微妙に違った茶色の生地が縞模様になっていて、うえに薄いチョコレートがのっているやつだ。

「は、はい」

女性は慌ててケーキを取り出し箱に詰めようとして、その動作を有本に止められた。

「…あ、」
「へ?どうしましたか?」
「……………」
「…あの、お客さま?」
「…すまない。もうひとつ貰えないか」



彼が部屋に戻った時、中には誰の姿もなかった。
代わりに電気はついたまま、床やらコタツの上やらに菓子の袋が散乱している。ソファー横のコンセントに充電器とゲーム機が繋がっていて、同居人が出ていく前に何をしていたか手に取るように解った。

「………はぁ」

ひとつ盛大なため息をついて力なくケーキを冷蔵庫に入れた有本は、散らばった袋を鷲掴んで次々とゴミ袋に突っ込んでいく。この部屋にゴミ箱は無かった。

コタツの上の袋を一掃しようとそれらを纏めて掴んだ時、何か袋とは違った感触に動きを止める。
手のひらを開いて確認するとメモ用紙のような紙を握りこんでいて、そこには以下のような内容が書かれていた。

『オレ様のカワイイカワイイ呼人クンへ結衣ちゃんと約束が入っちゃったから今夜は帰りませーん!超ゴメンネ!あとゲームの電源がついたままになってるからセーブして消しといて八束より(´з`)』

全て読み終えると、有本はメモをもう一度ぐしゃりと潰してゴミ袋に投げた。
それから袋の口を縛って部屋の隅に移動させた後、アイテム画面が開いたままになっているゲーム機の電源を切ろうとして止め、セーブをしてから本当に切った。自分は一体何をしているんだろうと思いながらテレビをつければ、クリスマスのデートスポットランキングがやっていた。切った。

部屋の照明同様つけっぱなしになっていたコタツの中は暖かく、有本は自分の手足がすっかり冷えきっていたことを知った。
疲れ果てていた彼はコートを近くに放り、頭だけを出す形で全身をコタツの中に滑り込ませる。普段は絶対にしないことだった。同居人が部屋に居れば尚の事。

(本物の馬鹿だな)

コタツの暖かさを堪能しながら彼はふと思った。

(まだアイツを待つつもりでいる。帰らないと知ったばかりなのに)



気がつくと日は沈みきっていた。

有本はコタツに入ったまま眠っていたらしく、身体を起こすと下にしていた背中が鈍く痛んだ。
時刻を確認すると帰宅してから約二時間が経過していたが、日付が変わるにはまだ十分に時間があった。今頃クリスマスを祝う家族はご馳走やケーキなんかを楽しく囲んでいることだろう。

そして、同居人の姿は無かった。

「…」

まあそうだろうなと思いながら彼が立ち上がった時、部屋のドアがガンガンと叩かれる音がした。

「うー…呼人クンただいまあ。あけて〜」
「………」

有本はドアの向こうを見てもいないのに全身がどんどん熱くなるのを感じ、それが悔しくて舌打ちをした。

意を決してドアを開くと、まず最初に人ではなくもさもさしたかさばる物が腕の中に飛び込んできた。

「メリークリスマス、呼人クン」
「っわ、何だ…」

その正体は真っ赤なリボンで纏められた大きな花束だった。
沢山の花を掻き分けるとにんまり笑う片桐の顔が見えたが、有本はその顔に見惚れる前に違和感を覚えて眉をしかめる。

「…何か失敗したのか」
「あは、ばれた?」
「いや…ばれるも何も…」

ばれるも何も、花越しの片桐の両頬には赤くくっきりとふたつの手形がついていたのである。結衣ちゃんとのデートで何かやらかしたことは明白だった。

「実はデート中に別の彼女と鉢合わせちゃって…オレ様としたことが」

お前だからこそ起きたことじゃないのかというよくある突っ込みは口に出さず、有本は呆れたように目を細めて花束と共に部屋へ戻っていく。

「持ってくれてありがとー。それで手が塞がってドア開けられなかったんだよね」
「まあ当たり前だろうな。本当は持って帰る予定の無かった荷物だろう」
「ん?ああ、違うよー、これは帰り道で呼人クンに買ったの」
「…都合のいいことを」
「メッセージカード入れといた。呼人クン宛に」
「………」

黙りこんだ有本は少し歩く速度を早めて、片桐はその態度に満足していた。付き合いの長い同居人だ、こういう時の表情くらい見なくたって解る。
折角だからいつものようにからかってやろうかとも考えたがしかし、やり過ぎて機嫌を損ねるのも面倒だと思った彼は話題を変えることにした。

「ちゃんとシャンパンも買ってきたんだぜ。オレ様偉いだろ」

ケーキはどこも売り切れで買えなかったけど、と呟く片桐の方を相方が振り返る。頬と耳が少し赤い。
そして彼にしては珍しく、得意気に鼻で笑って言ったのだった。

「…それだけあれば十分だ」



↓以下オマケ↓

メッセージカード
『メリークリスマス呼人クン!!お前のことが一番すきだよ!!』

有本
「………」

片桐
「あああっ!!このケーキ、オレ様が一番好きなやつじゃん!!」

有本
「知っている」

片桐
「っ…呼人愛してる!!」

有本
「だ、抱きつくな!!」




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