そうして僕は今日も底辺を這いずりまわるのだ
「はははは」
街の中を歩いていると、地面が足に纏わりついてきた。
随分と柔らかいアスファルトだと思いながらそのまま進むと、足がどんどん重くなってくる。
「ははは」
ずっしりしたそれは形を持って僕の足首まで絡みつき、じわじわと上へ登ってきた。
「ははははは」
重い。いい加減重い。僕は日頃から身体を鍛える方ではなく、従ってこんな重しを連れたまま歩くのは酷い疲労を伴った。
地面に膝の少し下まで覆われてもう一歩だって進めないと思った僕がそちらに目をやると、纏わりついているのはアスファルトではなく人間で僕がアスファルトだと思って上を歩いていたのも人間だった。人間が沢山重なって地面になっているのだ。そして今僕に纏わりついているということは死体ではない。
「はは、みんなころす」
だがどこからどう見ても正常な人間ではなかった。
ころすころす言って口からハサミを出してきたそいつは、なんだか知らないが非常に僕を不快にした。
「ははは」
「うるせ」
ハサミを握りしめた人間の顔を蹴ると、漸く黙って地面の一部に戻った。
ろくでもないな。笑いのネタにもならない。底辺ごっこもここまで来ると傷の舐め合いという言葉では片付けられなくなってくる。
こんな事をする暇があるなら農作業でもしたらどうだ。畑はいいぞ。
「愛しているから私だけのものにするの。だって愛しているから。私だけのものにするの」
末期の勘違い女が狂った人間の真似をしてナイフを振り回している。そんなものになりきって何が楽しいのか僕には全く理解できなかった。解るのは奴が大した暇人だということだけだ。
どうせ誰も斬らないくせに。まあ何をしようと僕の生活に関わってくることは無いのだから好きにすればいい。勝手にすればいい。
ああ気持ちが悪い、ここにいる人間は揃って同じようなことしかしないしできないくせに自分は特別で複雑で病気なのだと思い込んでいるのだ。
馬鹿だな。所謂平和ボケの典型だ。
平和と暇は紙一重、暇がなければボケる余裕もない。
誰だ人間を捕食する生き物を創らなかった奴は。神か?いやそんなもんはいないな。あいつはキャラクターに過ぎない。
僕は早くここから逃げ出したくなった。
正確には逃げ出したいのは随分前からだったが、その気持ちがより大きくなった。
そうだ、そういえば僕は何故、いつから世界の底辺なんかを歩いているのだろう。
ここは僕には不釣り合いだ。
僕はこいつらとは違う。
いつからか忘れたが長い間歩いてきたこの淀んだ街の、肺から爪まで腐敗しきったこいつらとは違う。
違うんだ。
そう、僕だけ違う。
それは僕だけが特別だということで、つまりあいつらと同じだということで、僕がここから出られないのはそういう理由があるからだったのだが、生憎僕がそれを知る…いや、認められるようになるにはまだ長い時間が必要だった。
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