夏の八束と呼人3



「そんなカッコで暑くないんですかあ?」
「あ、大丈夫大丈夫。オレ暑さとかあんま解んねえから」
「へえ〜!クールなんだね!」
「そうそう!クールなのよ、オレ」
「自分で言ってる〜!」

あははははー。

テンションの高い水着美女達と八束とのやり取りに、呼人は全くついていけずにいた。ビーチバレー一回戦を終え、早くもすっかり浮いてしまっている。
もっとも、女性達は彼が(照れとテンポのズレから)殆ど喋らない上に目つきが威圧的過ぎるため、話しかけたくても話しかけられないでいたのだが。


二回戦では八束と呼人が同じチームになった。

「呼人」
「どうした」
「オレこの子達は無理だわ。趣味じゃない…っていうか、今日の好みじゃない」

隣でぼそりと呟かれた言葉に、呼人は少し目を細めて声の主を見た。説明しておくと、目を細めるのは「こいつ本当うぜえ」と思っている時の彼の癖である。

「お前、最低な奴だな」
「ありがと」
「けなしているんだ。…で、どうするんだ、他の所に行くのか?」
「いや?ビーチバレーは楽しいからもう少し遊んでく。下心無しで」
「下心有りでビーチバレーする奴なんてお前くらいだろう」
「はは、そうかも」

八束は作っていない自然な笑顔で笑った。
呼人はそれに少しだけ見惚れてしまった自分を猛烈に砂浜に埋めたくなった。


ぱぁん、と小気味良い音をたて、ビーチボールがビキニの女性の腕に当たって跳ねた。
迫ってくるそれに八束が走り寄り、ジャンプして上から思い切り叩き返す。要するに本気だ。
彼は伊達に身体張って仕事してないよと言って偉そうに呼人を見たが、相方である呼人の仕事内容は彼と全く同じであった。

したがってそのような旨のツッコミを入れようとした呼人だったが、あることに気をとられて失敗に終わった。

「…八束、お前」
「なに?」

ボールに集中するあまりぶっきらぼうに答えつつ、八束が手の甲で額の汗を拭う。

「汗だくじゃないか」
「いや、だってあっちいから……………ん…?えっ!?あれ?」

精神的なトラウマから暑さを感じないはずの八束が、汗を拭ったのだ。

寒さを極端に恐れる彼が。

「…呼人、オレ…あつい」
「お前…暑いのか!?暑いってわかるのか!?」
「うん、ちょう暑い!もうもうする!脱ぎたい!」
「ほっ…本当か八束!?お前凄いぞ!」
「やべえ、すげえ!オレ様すごい!どうしよう泣きそう!うわぁぁぁあ呼人ぉぉぉおっ!」
「ぶはっ!?」

試合中にも関わらず、八束はぎゅうぎゅうと呼人に抱きついた。向こうのコートからサーブが届いたが、勿論二人には見えていない。

「よひと!呼人っ!やった、オレやったよっ!うぇぇ、ぐすっ」
「ば、ばか、そんな泣くな、俺までっ…、っ…!」

周囲の人々には何が起こっているのか全く理解できなかったが、その日のその瞬間が彼らにとってとても大切なものであったことは確かだった。




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