ねむねむ



ある夜、少年は師匠である魔導師の部屋に無理矢理連れ込まれ、熱いガチンコオセロバトルを繰り広げていた。
特に何か賭けをしているという訳ではないが、現在数十回連続で惨敗している少年にとっては自信のプライドの関係でこのままでは終われない戦いだったのである。

「…いい加減諦めたらどうだ」
「いやだ!…せめて一勝はしないと寝るに寝れない」
「だってお前すげー眠そうじゃねえか」

この戦いが幕を開けてからかなりの時間が経過している。
日付が変わったのも随分前だ。

「…眠くないもん」

少年はとろんとした目をこすりながらぶっきらぼうに答えた。
口調からも眠気が滲み出ている。
魔導師は絶対嘘だ、と思ったが口には出さず、代わりに小さく笑ってボードの上を片付け始めた。

「いい度胸だ、受けて立ってやる」


かくん、と少年の頭が揺れたのは、それから数分後のことだった。まだ緑のマスは半分も埋まっていない。
頭と一緒に腕が大きく動き、並んでいた白と黒の列がぐしゃりと歪む。

「…おい」
「……あ…ごめ」

意識を半ば夢の世界に持って行かれながら尚も戦いを続けようと伸ばされた少年の腕を、呆れ顔の魔導師が掴んだ。
それから身体を乗り出して、もう片方の手のひらで彼の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「なんだよ、僕まだ勝ってない」
「チビはおねむの時間だ」

魔術を使ってオセロを手を触れずに片付けながら、魔導師がゆっくり立ち上がった。ずっと同じ姿勢だったからか膝の辺りの骨が音を立てる。
オセロの道具が独りでに飛んで棚に戻っていくのをうつろな目で見守る少年を引っ張って立たせ、引きずるように数メートル運んだ後、自分のベッドに荷物でも扱うような手つきで放り投げた。

「っ…な、なにするんだよ」

顔面からダイブする羽目になった少年が身体をひっくり返して抗議すると、その上に魔導師がナチュラルに座った。

「ちょっ…と、重いんだけど…」
「うるせえ」

そのまま少年のパジャマの襟元を掴んで自分の方に引き寄せる。
眠気で上手く力が入らずされるがままになっている彼の額に、ちゅ、と音をたてて口付けた。

「………え、」
「寝ろ」
「ぎゃぶっ」

少年は驚く暇もなく再びベッドに押し倒される。
次いでお腹の上の重みが消え、魔導師が横に寝転がるのが解った。

「…間違えた、おやすみ」

少年は少しだけ照れたように笑う魔導師に「狭い」と文句を言いながら笑い返し、ようやく眠りに落ちていったのだった。




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