先輩後輩



「ぐち先輩、受験大丈夫なんすか」

戸塚は携帯ゲーム機のボタンをひたすらに連打しながら、興味の薄そうな声で小さく言った。明るい色の髪はふわふわと揺れる度、窓から差す夕日を違った角度で拾って輝く。

「大丈夫じゃねえよ」

藁半紙のプリントの端に柔らかい鉛筆で線路を描き、黒い機関車を描き、顔を上げて溜め息交じりの返答。
鉛に似て黒い瞳がふわふわの光を追う。やめる。風を受けてゆるく膨らむカーテン。
ひとつ、身震いをした。

「明日受験本番っすよね」
「まあ」
「べんきょ、してんすか」
「してるように見えんのか」
「全然」

ゲーム機が机に投げ出され、漸くふたりの目があった。呆れたような顔の戸塚、何故か偉そうな顔の安口。後者は即座に目を逸らし、もう一度相手を見つめる。震える瞼。彼は人の目を見るのが苦手だし、嫌いだ。

「浪人でもするんすか」
「今日はやけに質問が多いな…まー、偉大な画家は浪人だとか、そんなもんは気にしないからな」

戸塚は猫のようなつり目をぱちくりさせた。偉大な画家、と小さく復唱。
それからしばしの沈黙をはさみ、彼はいたずらっぽい笑顔で言った。

「偉大な画家サンが浪人したら、おれと同じ学年になるっすね」

黙る安口。

「おれが先輩にタメ口か〜…あっ違った!偉大な、画家サンに」

直後、ガタ、と大きな音が響き、戸塚は安口を見上げることとなった。音の正体は彼が立ち上がる際に思い切り引かれた椅子だった。

「…先輩?」
「それは困る。今からデッサンしてくる」
「うそ、今からぁ?」

先程までの無気力が嘘のように素早いうごきで、安口が荷物をまとめてゆく。あっという間にグレーのマフラーを巻いて部屋から出て行こうとするので、戸塚は慌てて後を追った。急いでいたためコートのボタンは全開、椅子の背にかけていた学ランに至っては片手でひっ掴んだままという酷い姿であった。


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