何となく危ないかなあとは思っていたしぶつかる一秒前にはこうなると解っていて、それは恐らく小村君にとっても同じだったが、それでも顔を離した後に暫しの沈黙が生まれた。
所謂放心状態というやつに陥っていたのだ。

「………」
「………」
「………」
「………お、おむらくん」
「………」

どうやら小村君には僕の声が聞こえていないようだ。目をまん丸に開いてぴくりとも動かない。
それは僕にとって少し意外だった。彼のことだからあまりこういうことは気にしないと思っていたのだが、案外そうでもなかったのかもしれない。相当ショックだったのかもしれない。だとしたら本当に申し訳ないことをしてしまったな、僕みたいながっかりな野郎が…っていうか僕どうしてこんなに冷静に状況を解説できているんだろう?特にクールなキャラでもないし悟りも開いた覚えはないのに。小村君が僕よりも驚いていたからだろうか…いや多分違うな、びっくりし過ぎて何か越えてはいけない感情的な一線を越えてしまったのだろう。戻っておいで僕。そして戻っておいで小村君。

「…ね、ねえ小村くん大丈夫!?ごめんねっ、しっかり!!」
「照山、おれ」

左手で頬をペチペチ叩いたらやっと返事が返ってきた。

「どうしたの?」
「…無理」
「え、何が!?重みが!?」

「…もう無理。我慢できねえ」

そう言った小村君の声は僕が今までに聞いたどれよりも低くて、少し掠れていた。

「お、小村くん?…わわっ」

本に埋もれている小村君の両腕が動いて僕の腰あたりを滑る。
くすぐったくて身を捩ると本が一冊落ちてきてまたキスしそうになった。今回はセーフ。

「ふひゃ、くすぐったいよ〜!一体何がしたいんだ小村くん!あははっ!」
「教えてやろっか」
「うん」

小村君が僕を見つめてきたところで、図書室の入り口のドアがばあぁん、と乱暴に開かれた。

「大変、忘れ物しちゃった〜…って、貴方たち一体何してるの?」

さっき出ていった眼鏡の司書さんだった。良かった助かった、これで出られる。

「あの…実は本が落「くすぐりごっこでぇぇぇっす!!!!!!」ぇ、ひゃっ、小村くっ…ふあぁ、うはひゃひゃひゃひゃっ!?!?!?」

…と思ったら小村君に思い切り遮られ、彼は言葉通り僕のことを全力でくすぐり始めた。

「ちょっと、どうしたのよ!!」
「しっ司書さ…助けてえぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」



その後、僕らは司書さんの助けを借りてどうにか本の中から脱出することができた。
…が、司書さんは飲み会に遅れるといって物凄く不機嫌になってしまい、落とした本の始末は僕らの仕事になってしまった。なんということだ。唐揚げ。

大量の本を棚に収納しながら、そういえばふぁーすときすはかわいいおんなのことするってきめていたのにちくしょうとおもった。いや違うあれは違う、どう考えても事故だしそもそもコイツ男だからノーカウントだ。大丈夫全然いける。

「照山」
「っ、なに?」
「…大丈夫?」

だから小村君が心配そうに覗きこんできた時、一瞬硬直してしまったのも気のせいだろう。


##おわり。



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