「大変、このままじゃ飲み会に間に合わなくなるわ!!」

出てきたのは眼鏡をかけた女の人…この図書室の司書さんだった。そっか、司書さんも飲み会行くんだね。そっかそっか。

「あっ司書さん司書さん!あのさ、おれ達この本返しに来たんだけど、ここに置いといていい?」
「え、今返すの!?…あ〜、貴方たち棚に戻しておいてよ!どうせ暇なんでしょっ!」

ばたん。

司書さんが行ってしまった。僕らにとって物凄く残念な台詞を残して。

「…小村くん、どうしてわざわざ聞いたんだよ」
「だ、だって…」

そこで小村君のお腹が悲しげな悲鳴をあげたので僕は黙った。彼を責める気力が失せてしまったのだ。

「まあいいや…早く本を片付けてコンビニにでも行こう」
「!…うん、そうだなっ」

僕が声をかけると小村くんはニッコリ笑って(空腹からかいつものような満面の笑みではなかったが)本の束に手を伸ばした。
おかしいな、彼に犬耳と尻尾がついているように見える。そういえば以前にもこんなことがあったような無かったような。



「あと一冊だ…」
「やったな照山!!それでとどめだ!!」
「とどめ!?」

気合いで本と格闘すること十数分、漸く今僕が持っている一冊をもって闘いが終わる。終わったらコンビニに行く。コンビニに行くんだ。肉まんか串に刺さった唐揚げを食うんだ。あれ凄いうまい。

最後の本は一番上の棚にあったものだ。
僕はラスボスを倒しに行くような気持ちで小ぶりの脚立に足をかけた。

「大丈夫か?」
「大丈夫…僕にやらせて欲しいんだ」
「??…ふうん」

不思議そうにきょとんとしている小村君を尻目に脚立をのぼる。一段、二段…
そして一番上の棚に本一冊分の隙間が空いているのを見た。
ここだ。

僕はそこに最後の本ー…『モンブラン人間ダニー〜早く人間になりたい〜(下)』を滑り込ませる。最後に相応しいフィット感だと思った。

「…やったのか?」
「やったよ…僕やったよ小村くん!!」

達成感に浸りながら横に立つ小村くんを見る。がちゃんと薄い台が鳴った。

「良かったな照山。これでコンビニに…」

…どうやら脚立の上で彼の方を向いたのは失敗だったらしい。
うっかり自分の右足に左足をもつれさせた僕は身体がぐらりと傾くのを感じた。

まずい。

咄嗟に本棚に掴まったがそれは間違いだった。本棚は思いの外不安定だったのだ。


「…ぇ、う、うわぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」




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