勝手に殺してんじゃねぇよ、クソジジイ


 私はサタンほどの悪魔には耐えられないが、八候王の憑依に耐えられる体を持っていた。両親を亡くしたばかりの私は、精神的に不安定で、悪魔に憑かれやすい状態だった。
 メフィストが出張にいっている間、両親を失った不安から私はアスタロトに憑かれた。
「アスタロト、出ていけ」
 その言葉で私は目を覚ました。私を目覚めさせたその声は、人間味の全くない酷く恐ろしいものだった。私に聞こえないと思っていたのか、メフィストは脅しを言葉に籠めた。
 それが皮肉にも、私が意識を取り戻す切欠になってしまった。
 怖い怖い、と支配された自分の体で必死に叫んだ。私は人間だよ、弱いよ、悪いことはしないから、そう喚いた。殺される、と本気でそう思った。
「アインス、ツヴァイ、ドライ」
 最後に聞こえたのは決まりの文句で、目が覚めた時には私はベッドの上にいた。


 メフィスト・フェレスは怖い。やつは悪魔だ。私がやつを理解できることはありえない。ただ、やつは私を殺さない。
 やつにとって、私は殺す意味もないものだ。私は彼の玩具であることは変わらない。私は玩具のようなものだ。それは変わらない。私がやつに抵抗する力を持たない限りは。
 悪魔と人間の力の差、心の違い、全てが私を恐怖させる原因であると同時に、私を守る盾になる。


 アマイモンから"事後報告"を聞いた。アマイモンには全く非はない。そのままアマイモンを帰す。
 生きている可能性は限りなく低い。
「名前君が見つかりません」
 自ら捜索を申し出てきた奥村先生の顔色は悪い。
「フェレス卿、名前君は……」
 彼女は奥村先生とはそれ程親しくはなかったらしいが、奥村先生の兄とは仲が良かった。
「生きている可能性は限りなく零に近いでしょうね☆」
 奥村先生はぶっきら棒にそうですか、とだけ返すと私に背を向けた。
 奥村先生が立ち去ってから天を仰ぐ。
「しかし、サタンに親を殺されたのに関わらず、サタンの子に育てられ、サタンの子についていき、サタンの子に殺されるとは、愚か意外の何者でも……」
 雲ひとつない空を見上げて笑う。嵐のような子どもの死には相応しいほどの晴天だ。
「勝手に殺してんじゃねぇよ、クソジジイ」
 嵐は何の前触れもなくやってくる。
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