俺にはそんな弟いねぇ


 骨折は治ったが、切り傷と噛み傷は痕が残った。嫁に行けなくなったらどうするんだよ、責任とってくれるのかこの野郎、と嫁に行く気もないのに心の中で呟きながら歩く。
「兄上の香りがします」
 少年のような声と共に、逆さまに現れたのはとんがり緑頭の男だ。とりあえず、人間ではない。絶対にロクな奴じゃない。ロクでもない奴に育てられた私は、こういう判断に長けている自信はある。
「あなた誰ですか? なんか知り合いに異様に似ているので初対面のはずなのに腹立たしいのですが☆」
 遊びで色々やっていたせいで、私は奴の真似は上手い方だと自負している。
「兄上ですか?」
「俺にはそんな弟いねぇ。いるはずねぇ。この見るからに変態くさい……」
 そう言っていると、彼は私の首元の傷を見て言った。
「兄上の魔障……兄上の敵?」
 そこで漸く私はこの男の言っていることが分かった。そう、この男は奴の弟。
「てめぇ、あのド変態の弟か」
 それなら納得できる。似ているのだ。
 そう思ってさっさと立ち去ろうとしたが、弟君はそれを許さなかった。首元を掴まれて持ちあげられる。
「兄上の敵なのですね」
 棒読みの喋り方は、腹立たしいほどに抑揚を好む奴とは似ていない。しかし、言葉にできないようなおぞましさはそっくりだった。
「違う」
 慌てて首を振る。しかし、悪魔は表情を変えずに私に近づいてくる。
「あなたは兄上の敵ですね」
 奴とは全く違った狂気染みた目でとらえられたかと思うと、衝撃波で地面に叩きつけられた。体が焼けるように痛い。そして、手足が燃えるように痛く、骨も何本か逝ってしまったらしい。
 私は決死の覚悟で背後のどぶ川に飛び込んだ。意識が遠のくのを感じた。
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