ピンチ効果


 昔から、名前とはよく喧嘩した。喧嘩はなかなか決着つかず、大抵オーバが来るまで続いていた。
「名前ちゃんは女の子なんだから」
 そう言って大人は俺を咎めたが、俺は全く意味が分からなかった。何で、オーバは良いのに、名前と喧嘩してはいけないんだろう、と思っていた。
 本当の意味に気付くには、それ程時間はかからなかった。
 いつの間にか俺の身長と名前の身長の差は開き、名前の腕を簡単に止められるようになった。腕を押し付けて、してやったり、といった顔をした時には、名前は悔しそうに唇を噛んでいた。三人で競争しても、名前は必ず負けるようになった。競争が終わった後、楽しかった、と全然楽しくなさそうに言っていた。
 付き合った女の考えなど理解できたことはないが、名前の思考は手に取るように分かった。俺たち二人に対する劣等感や、仲間はずれにされるのではないかという不安は、あいつの些細な言動や表情からすぐに分かった。オーバは、そんな些細なこと、と言って笑っていたし、俺も取るにたらねぇ、と思う。
 でも、あいつにとっては大問題だったことは、すぐに分かった。
 それでも、一つだけ勝負のつかないものがあった。悔しいが、むしろ名前が一番強いであろうものだ。名前は己の全てをそれに注ぎ込んだ。俺とオーバも同じだったが、名前には勝てなかった。名前は情熱だけではなく、俺たちへの劣等感までを注ぎ込んでいた。そんな時の名前は明るかった。だから、ますます俺たちはのめり込んでいった。
「ルカリオ……」
 この前はよくもインファイト連発してくれたな、と思ったが、何やらそれどころではないらしい。必死に飛びついてくるルカリオだが、生憎俺はポケモンの言葉が分からない。
 ただ、一つ分かることは、名前に何かがあったということだ。名前はポケモンに何かがあるといけないといって、自分の傍から離すことを酷く嫌う。
 俺はモンスターボールを取り出した。
 ライチュウはルカリオの話を聞いてから、俺の方を見て頷いた。
「ライチュウ、行くか」
 俺のライチュウ、オーバのゴウカザル、名前のルカリオは、それぞれ最初に手にしたポケモンだった。
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